第98期 #4

『叙景の死』 ウィル&ヴィクトリア・ベッヒャー

死人の耳
に兵士が
ささやきかけた
そろそろ起きる時間だよ
その穴からは浜辺
が見えた
さざなみの音がする

ジャングルをにぎわす鳥たちのように
ゆれる赤い銛先
鳥ども
が さえずる
われわれはだれも
兵士のように狩りはしなかった


あのコンバーチブルはけして速くなく
その赤は像を残さずに
かわりに
熱のこもった光がうつくしくなくわめきたて
おおきな溜まり
を 砂のうえに
のこしていった

わたしは海岸線を歩いている
そこには出逢いがあり、おおむね笑みがころがっている
わたしは今

を書いている
だいぶまえから筆と手帳を携帯するのがわずらわしくなり
携帯電話で

を書いている
ほとんどは海辺の詩だ
この目に映るものだけが詩へと変容可能なのだ

だからおまえは
すべてを見たことにする
耳にしたものも 手にしたものも 味わったものも

今一度あのささやきに耳をすまそう

わたしは眠らねばならない

死人は眠りを ねむり
目覚めを めざめている
だからもう一度、あの
ささやきを ささやこう

われわれは、なによりもまず眠らねばならない

死人の耳

にぎわす
鳥のような兵士

ささやき
ささやき
が さえずる
われわれはだれも
兵士のように狩りはしなかった


赤いコンバーチブル…

携帯電話のバッテリーが切れかけている
おまえは立ち上がり
あたまの中に詩を描こうと試みる
ジャングルを思い浮かべ あの独特な暑さを再現しようとする
海の香りがする
それはおまえが海にいるからだ
風の音がする
それはおまえが過去と現在を生きているからだ
赤い鳥が
潮風をあびて…

赤いコンバーチブル…

おまえは断念する
詩を?
そう
もう何十年も 詩 に寄添ってきたのに?
しかしおまえのそばに 詩 があった試しはなかった
詩 がそばにあったらそれは 詩 ではない
だからおまえは断念する
詩 ではないものがおれのそばにあるのか?
そう

それは
眠り
なのか
目覚め
なのか

過去なのか
死なのか

こうしてわたしはまたひとつ詩を書き上げ 夕食の準備に街へと繰り出した
わたしは詩を売って生活している
いや
そうではない
詩をもらってもらい 憐れんでもらい 食べものをもらいうけるのだ
その食べものが愛おしい
わたしは
詩で生きている

そろそろ起きる時間だ
そのために
なによりもまず
眠らねばならない

それは
眠り
なのか
目覚め
なのか

赤の…


おれはいま海岸線を歩いている

おまえはいまたしかに海岸線を歩いている

あの
ゆれる
血に染まった銛

見えるか

わたしのささやき

死人

目覚め
から
めざめる…




浜辺

消えて
 …



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