第98期 #13
鼻が粘土みたいに潰れた奴、腕が木の根っこみたいによじれた奴、そして頭がスイカみたいに半分割れた奴なんかの、生活の世話をするのが俺の仕事だ。
「今日は良い天気だね」
耳がソフトクリームみたいに溶けて無くなった奴が俺に話し掛ける。
「ああ。恋人と散歩しながら、ソフトクリームでも食べたい気分だな」
「ソフトクリームだって?」
「いや別に……それはみたらし団子でもいいのさ。彼女が食べたいと思う物で俺は構わないよ」
休憩時間になると、俺は園の庭に置かれたピンク色のベンチで煙草を吹かした。園長によれば、ピンク色というのは平和と希望の色だという。でも頭を半分吹き飛ばされた奴にとっての希望って何だろうなと考えていると、俺の隣に金髪のすごい美人が腰掛けてきた――といってもそれは左半分だけの話で、女の右腕と右の乳房はきれいに切断され、顔の右半分にはひどい火傷の跡がある。
「ねえ、あんた結婚してるの?」
「いいや」
「恋人は?」
「昔はいた」
庭のどこかで、鳥が春みたいな調子でほがらかに鳴いている。
「あんたって寂しい人なんだ」
「関係ないだろ」
鳥たちはこの女が失った体のありかを知っていて、そこは失われたすべてのものが保護されている楽園で、毛むくじゃらの醜い番人が一人楽園を守っていて……
「俺はお前らの世話をして給料をもらってる。ただそれだけのことさ」
その日の午後は外国の慰問団がやってくることになっていた。中央アジアにある何とかスタンという国の伝統的な舞踊を披露してくれるのだという。
「あの子が踊るのかな」
到着したバスから人が降りてくると園の奴らがソワソワし始めた。
「まだ中学生くらいだね。首も脚も細いし、胸も小さいよ」
広い食堂にはステージが用意されていて、派手な民族衣装を身に着けた舞踊団が手に楽器を持ってゾロゾロと入ってきた。
「みんな男前ねえ!」
舞踊団の連中は、会場を埋め尽くす異形の集団を眺めながらやや顔を歪めた。
「ほらあの子がきたよ!」
ステージの中央へ、天女のような女の子が現れると狂ったように拍手が起こった。女の子は異形の集団に怯むことなく、花のような横顔を凜と張り詰めながら最初のポーズを取る。
「あれ、私の右顔よ!」
俺は馬鹿みたいに叫ぶ金髪女を黙らせた。
「あんたも見たでしょ? 毛むくじゃらの、バスの運転手」
「ああ見たさ」俺は女の柔らかい体を抱きしめていた。「楽園の鳥も、鳴いていたな」