第97期 #14

嗚呼素晴らしき人生

 ここに、命が降りる。
 両親の愛情を一身に受け、首も座り、自分の手足で動けるようになり、やがては立ち上がり。すくすくと育った子供は、自らの足で歩くことで、また新たな世界を見出す。自分の意思で、成長するための活動を行っていく。
 学校に入り、教養を身につけるだけでなく、他人との交流を重ねていく。ボロボロのテストを机の引き出しに隠したこともあった、友達とケンカして何日も口を聞かなくなったこともあった。
 いくら挙げてもキリがないような思い出が、いくつもいくつもそこにあった。そのときの思い出は不思議なことに、大人になってからのそれとは違い、成長しきった今でもずっと、心に深く刻み込まれている。
 小学校、中学校、高校、大学と上がっていくにつれて、自立について周りから色々教え込まれ、また深く考えさせられた。そのときに抱いていた感覚は、実際とは全くと言っていいほど違っていたなと、今更になって思い返す。
 部活も勉強もサークルもそこそこに頑張り、大学を卒業するとそれなりの職場にありつくことはできた。良いことばかりではなかったが、悪くはなかった。自分のこれまでを省みたとしても、十分納得はできた。
 就職して二年ほど経った頃、今の女房と結婚した。会社のひとつ上の先輩で、入社した当初から優しく接してくれた人だ。気弱な自分に手を差し伸べて、また引っ張ってくれた彼女には、今でも感謝している。
 子供は二人もうけた。一姫二太郎。縁起がいい。娘は高校に入学し、息子も中学三年を迎えている。二人とも、順調に育っている。これからも、子供達の成長を間近で眺めていたかった。
 だけど、それは、もう、出来そうにないらしい。
 一年ほど前、体調が優れない日に病院に行ったとき、医者から胃がんと宣告された。そして、あと一年もてばいいほうだ、とも言われた。
 驚きはなかった。ただ「ああ、もう終わるんだ」という考えだけが、頭の中を彷徨っていた。
 病気を打ち明けると、両親も女房も泣いていた。そんな中、子供達は少し信じられないような、困惑した表情で。それを見て初めて、悲しみが募り出していた。
 だけど、それは、もう。
 いつの間にか、目から大粒の涙がこぼれていた。
 それでも、現実を段々と受け入れていく。残りわずかな時間で、出来ることを模索していこうと考える。そうだ、子供達にはまだまだ伝えたいことが沢山残っている。死ぬ前に、ひとつでも多くのこ



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