第97期 #12
コンコン。
「誰?」
「僕だよ」
「僕って誰だい?」
「ええと、同じクラスの……東だよ」
ガチャガチャ。
「やあ」
「どうしたんだい? 何か用?」
「それよりも、とりあえず入れてくれないか。びしょ濡れなんだ」
「雨でも降って来たのかい」
「いきなりだよ」
「……どうぞ」
「やれやれ、助かった。……ねえ、タオルを貸してくれない?」
「いいけど。そんなにすごいのかい」
「ああ、バケツの水をひっくり返したみたいだよ」
「僕はずっと部屋にいたけど、気がつかなかったな」
「寝ていたんじゃないのかい」
「そんなことないよ。……ホラ、窓から見てごらん。外は晴れているじゃないか」
「……もうやんだのさ」
「……」
ゴシゴシ。
「そんなところにいると風邪をひくよ。こっちの部屋へおいでよ」
「え、いいよ。床を濡らしちゃわるいし」
「かまわないよ。それに話があって来たんだろ」
「それじゃあ……失礼するよ」
ドタドタ。
「何か飲む?」
「そんな、おかまいなく」
「お茶しかないけど」
「すまないね」
「さあ、どうぞ」
ゴクゴク。
「こりゃ、うまい。いいお茶だね。これでも、お茶にはうるさいんだ」
「安物の玄米茶だよ」
「……そうなんだ」
「……そうなんだよ」
「……」
「で、なんだい」
「えっ」
「何の用? その、どしゃ降りの中、わざわざ……」
「あ、ああ。そのことなんだけど……」
モジモジ。
「どうしたの」
「いやあ、大したことじゃないんだけどさ」
「だから、何だい」
「……うーん。面と向かうと、言いにくいなあ」
「……良い話? 悪い話?」
「……」
「ねえったら」
「……」
「黙っていたらわからないよ」
「……」
「ごめん。悪いけど……。僕はそろそろ出かけなくちゃならないんだ」
「ええっ、そうなのかい。じゃあ、またの機会にするよ。いやあ残念だ残念だ。でも仕方ないよね」
「……うん。でも、いいのかい」
「いいよいいよ。明日、学校で」
「……」
「……」
「ねえ、一つ聞いていいかな」
「な、なんだい」
「君、本当に東君かい?」
「な、何を言うんだい」
「どうも印象が違うような……」
「ハハハ。間違いなく、僕は東だよ」
「そう。……ごめん。変なことを聞いて」
「いやいや。……じゃあ、帰るね」
コソコソ。
「ねえ!」
「……は、はい?」
「やっぱり話してくれよ」
ドキドキ。
「頼むから」
「そうかい。わかったよ。それじゃあ、話すけど、実は……」
バキューンバキューン!
「……ごめんよ。でも、こうするより他なかったんだ……」