第96期 #9

熱闘関ヶ原

九月十五日。プレゼン資料の締切日だが、取引先での陰口を聞いてしまって以来、あれだけ充足感を覚えていた仕事が急につまらなくなった「あの担当者じゃこのプロジェクト前に進まないだろ。あそこと組むならべつの部署とコンタクトした方が」幻聴を消すためラジオに手を伸ばす。



小早川初球を引っ掛けゲッツー追加点なりません。解説の織田さん「西軍は打線がまるで線になりません」初回の石田のタイムリー宇喜多のツーラン以降点が取れませ


こんな時間に野球か。


最終回東軍は一番からの好打順。宇喜多も球数百五十球を超え気力を振り絞ってのピッチングこのまま逃げ切れるかキャッチャー石田ナインに檄を飛ばします。東軍もこれまで二桁安打を放ちながら無得点「徳川ジュニアの欠場が悔やまれますね」初球加藤打ったああサード長宗我部これをファンブル!1塁セーフ。2番黒田、か、簡単に打ち上げたレフト吉川ゆっくりとこれをおおーっとグラブに当て落球!1,2塁ノーアウト。池田福島山内のクリーンナップを迎え野手マウンド集合します。石田ベンチを見ますが毛利監督微動だにせず続投のようです。池田打ったーセカンドの右を抜け、っと抜けない抜けない大谷ファインプレー一塁アウトワンナウト二三塁四番福島ああ〜っとここで敬遠!福島怒り心頭兜を叩きつけたぁー「満塁策ですね」ここで徳川監督自ら山内を除けバットを持って登場、でたあ『代打拙者』満塁一発出ればもちろんサヨナラのチャンスです「チャンスですね」バットをスタンドあいやセンター小早川に向け打席へ。ボールボールストライクボール「よく球がみえています」次のバッターに好調藤堂押し出しは避けたいところ第五球打った―センターへ一直線小早川の前に、落ちたヒットヒットヒット加藤ホームイン黒田も三塁を回あああっと小早川トンネルぅしかも球を追わないーレフト吉川ライト脇坂も微動だにせずセカンド大谷が必死の形相バックアップ走る走るこの間に一塁走者福島ホームイン同点っ徳川も巨体を揺らしながらサードコーチ本多ぐるぐる手を回す大谷小西へ中継バックホームキャッチャー石田ブロック体勢を取った徳川根こそぎすべてを吹っ飛ばすーサヨナラサヨナラ代打サヨナラ逆転満塁ランニングホームラーン「劇的な幕切れでした」東軍歓喜の輪の中胴上げが始まりますまず徳川宙に舞った続いて福島黒田加藤そして小早川あー


ラジオを切る。なんとか、なりそうな気がしてきた。



Copyright © 2010 さいたま わたる / 編集: 短編