第96期 #23

エレベーターに乗る

 私はイヤホンを耳に差し込んで、J-POPを聞いて居たので、母の言葉が聞こえなかった様だ。二階にある本屋までエレベーターの自動運転を無視してがしがし自分の足で昇ってから、週刊誌を読んで居る所で母が目の前に居て、私に話しかけて居るのに気が付いた。
「寿がきや(Sugakiya)で食べて行くよ」
と言う。
「だったら出入り口の所で言って頂きたかった」
と言う意味の事をぶっきらぼうに言う。寿がきやはスーパーの出入り口を入って直ぐ左を行くと直ぐの所にある。
「父がかく決め給(たま)う。私にあらず。いきなり決まりし事なり。あらかじめ決まって居た事にあらず。ゆえに車内で言う能(あた)わず。なんじに出入り口の所で言いしにかかわらず、なんじはずんずん行けり。止める能わず」
 と言う意味の事を創作話を語る様に母は私に言う。
 9月7日(火)16時頃、我々3人は、ピアゴ岩倉市八剣町長野店に来て居た。ここには火曜日に来る事が多い。午前中に来る事もあるがまれで、大抵は16時から17時にかけて来る事に決まって居た。
 かく言う事情で、私は二階の本屋から一階の寿がきや(Sugakiya)へ引きずりおろされた。そう言えば前来た時も来て直ぐ、其処でクリームアンミツを食べたなと想起する。
「なんじは何を食べるや」
と言う意味の事をかなりぶっきらぼうに、私は母に言うと
「宇治金時」
と母。
 しかし宇治金時を食べるのは父で母はクリームアンミツだった。私は父と同じ物を食べる羽目になって仕舞った。
 急いで食べ終えると、手がべとべとして居る。
「私は本屋へ行きます。では」
と言う意味の事を普通に二人に告げて去る。自分の食べた後のグラスは返却しておきたかったが、母は我が手を制止してもう行けと言う。
 私は再び二階にある本屋へ行く為、先程と同じエレベーターに乗る。先程と違って私の前に親子連れの三人が居た。先頭に幼い娘二人。その前に彼女らの母親らしき太った女が、バランスを失ったのか、単なる気まぐれか、片足を上げて元に戻した。と、ことんことんと塊の様な振動が足に伝わって来る。
 二日前の試験へ行った時の地下鉄電車内での振動は同じ様な感じの振動がもうちょっと早いペースでことことと伝わって来た。
 一週間前の金曜日アピタ一宮店の二階のヒャッキン(百円均一店)に居た時は、トレモロの様なさざ波の様な振動が。
 私は本屋で立ち読みする前にトイレで手を洗った。



Copyright © 2010 石川順一 / 編集: 短編