第96期 #21

文化祭

 あなたが間違っていて、私が正しかったことをここに証明する。
 二学期に入り文化祭の準備が始まった。あなたはクラスの責任者だった。私はあなたをサポートする仲間の一人だった。
 女学校なんて派閥を詰め込んだ手提げ袋だ。窓側の席でいつもイヤホンをしているのは佐伯さんといった。彼女が話しているのを段々と見なくなって、二学期になってからは彼女の声を聞いてない。私は話し掛けてみた。
「何を聴いてるの」
 佐伯さんはイヤホンを外して私を見た。私はもう一度同じことを尋ねた。
「ベートーヴェンの『運命』」
「それって、ガガガガーンってやつ?」
「そう。でも『運命』って勝利する者の曲なのよ」
「クラシックが好きなの」
「ジャズも好きかな」
 佐伯さんともう一人クラスに浮く子がいた。一番背の低い子だった。彼女が使う自転車はサドルがズタズタになっていた。
 その子のことは何も思わない。あの子には特別な感情を抱かない。だけど近い将来、佐伯さんも同じことをされると思うと私は辛くなる。ねぇ、あなたの本心では二人のことをどう思っていた?
 学校に行った最後の日。あなたは私を廊下に突き出した。皆でやろうとしてるのにあなたは仲間外れを作りたいの、と。周りの皆も私を酷いと言った。
 皆のことを考えていたのに。善意と欲とは何なのだろう。

 私は自分の正しさを証明できないみたいだ。あなたの本心が解ればできたのかもしれない。なら今度は、私の有様を見て。

 部屋にこもってニキビを一つずつ潰しては、ティッシュで拭き取る。
 時々赤く汚れる。ティッシュの表面さえも、擦れると細い痛みが走って鈍痛を招く。そうやって肌を傷付けては、母の部屋から持ってきた化粧水を塗って傷を癒そうとする。
 ピンチはチャンスと言うけれど、それを活かせたかどうか解るのはずっと先で、今は何が正しいか知る術が無かった。
 せっかく苦しんでいるのだから今の苦しみを無駄にしたくない。
 将来の糧にしたい。
 胸に刻んでおきたい。
 それでも、今の私は救われない。
「大丈夫だよ」と手を差し伸べてくれる人がいても払い退けてしまう。
 ここに居たほうが良いと解っているのに、私は駆け出して谷底へ身を投げてしまう。
 だけど、その瞬間も私は誰かが助けてくれることを望んでしまう。
 谷底に身を投げても、着地して生き残ってしまって。
 光の届かない暗闇の中で人の気配を感じると、ついすがり付いてしまいたくなるんだ。



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