第96期 #20

喜びはいつも君のそばに

 セレナーデ? セレネード? そんなことはどうでもいい。耳をつんざくサイレンの音で住人は目を覚ます。部屋の中にはぎゅうぎゅうに詰められた罪人と、野菜がある。
 軍服を着た米兵が手榴弾を炸裂させ、たくさんの血が、たくさんの言葉が飛び散る。五車線ある車道を慎ましく走り去る言葉を、農夫たちが手で掴む。
 そこから三キロ程離れたところにあるダム、水の枯れたダムに行こう。そこに穴を掘って暮らそう。いつまでも暮らそう。そしてベッドで本を読もう、簡単な本を、人が死なない本を、君が笑うような、くだらない本を。
 おおきな子供が生まれるまで。


 あ。



 
 
 乾いた。 

 


 

「首もとだけ白いのはなぜ?」
「よだれかけのせい」
 戦場を這う赤ちゃん、どうか汚されませんように。喜びはいつも君のそばに。



Copyright © 2010 葛野健次 / 編集: 短編