第95期 #2
その日は、喫茶店で友人と話し合っていた。
『ねえ、次の日曜、久々に会ってみない? 最近メールや電話ばっかりでさ、アヤと半年も会ってないよ』
誘ったのは、私からだった。一週間前、久しぶりにアヤと電話をしていると、ふと会って話をしてみたいと思ったのだ。
『ごめん、日曜日は予定入ってるんだ……。あ、ちょっとまって。来週の土曜なら大丈夫。近くに喫茶店見つけたからさ、そこでそこで会おっか』
『そうね。喋りたいことが山みたいに溜まってるから。私の長い愚痴、ちゃんと聞いてよね』
そうして、久しぶりにアヤに会う事になったのだ。喫茶店の中でアヤを一目見た時、以前よりも綺麗に見えた。彼女は携帯販売店で働いているらしく、今は彼氏もできたらしい。私といえば、毎日仕事に終われているせいでテレビもろくに見れていないというのに。
席に座ると、さっそく愚痴が始まった。
「部長ってさ、何であんなにちまちましてるんだろ。去年のミスを引っ張りだして、お前はここが悪いんだって毎日言ってくるのよ。その上好きな子には思いっきりえこ贔屓。見ててイライラしてくるわ!」
「私も、先輩の言葉が毎回キツいの。この間なんかさ、『あんたそのレベルでお客様と話そうとしてるの?』って言って……あ、ごめん。お母さんからメールだ」
数十秒の間画面を見ると、彼女は笑みを浮かべながら「お父さん、昨日の夜に迷子になったんだって」と言った。「仕事の帰りにね、ふらーっとどっかに行っちゃったらしいの。気がついたら知らない場所にいて、慌ててお母さんに電話したんだって」
「何それ、変な人」
ふと、私は昨日の夜のことを思い出した。
「そういやさ、昨日変なことがあったの。多分夢だと思うんだけどね、私が家に帰ってくると、ドアの前に白い犬がいてさ」
「それで?」
「その犬、私に向っていきなり『ここはどこですか?』って訊くの。いきなりの事だからびっくりしちゃって。それでも場所を説明したら、『ボーイズビーアンビシャス』って言って帰っちゃったの……」
ふとアヤの方を見ると、必死に笑いをこらえているのか、手で口をおさえているのに気がついた。その笑い方があまりにも不自然なものだから、私は訊いてみた。
「アヤ、そんなに面白い?」
するとアヤは、
「あのね、それ夢じゃないよ。だってその犬、私のお父さんだもん」
テーブルに置かれた携帯電話には、しっかりとソフトバンクの文字が刻まれていた。