第95期 #16
あなたはあくびを殺しながら私の右腕に腕輪をつけた。ふたりおそろい、しろつめくさで作ったの。
「ではいきますか」やけにのんびりとあなたは言って、私の手を握った。ほんわりと優しいぬくもりが伝わってきた。冷たいなあ、とあなたはつぶやき、暗い穴に入る。手を引かれた私は振り返る。しんしんと雪の降ってくる空を見ておく。
穴の中には乾いた枯葉がたくさん置いてあって、お日様の香ばしい匂い。
枯葉の中にせーのって沈み込む。
かさかさと音が鳴って、なんだか少しこそばゆい。
初めての冬、私は少し興奮していた。だって、春までの間ずっとあなたの匂いが、体温が、寝息がいつでも右隣にあるのだから。私はちょっとエッチな気分になっていた。なんとなく落ち着かずに、寝る体勢を微調整し、その度に鳴るかさかさが妙に気になった。
もしもあなたがすぐに眠ってしまって、変な興奮している私がずっと眠れなくなったら・・・。
考えれば考えるほどもっと気になって、目が冴えてくる。思わずあなたの手をぎゅうと握る。
「どうしたの?」「足の先が冷たくて」とつよがりの私がごまかす。
「あたためたげるよ」
ゆっくりさすってくれる。かさかさ、がさっきまでとは全然違って聞こえた。「だいじょうぶ」と言われてる気がする。なんかふわふわして、思わずあくびがでた。少し遅れてあなたもあくびをする。あ、うつった、と思うとなんだかうれしくなった。
あなたは穴にたんと蓄えてあるどんぐりをひとつつまんでかじる。こりこり、って美味しそうな音がして、私も食べたくなる。ひとつつまんでそれをかじりながらつぶやく。
「ねえねえ、春になったら、野原で寝転がろうね」
あなたはゆっくり答える。
「ハルは、ねむるの、好きだねえ」
やわらかい陽だまりをあなたと感じたいんじゃないのもう鈍感、って悔しいから口には出さず、かわりにあなたの左腕にあるしろつめくさの腕輪を触って、解けていない事を確かめた。
あなたは大きなあくびをして、おやすみ、とささやいた。もう寝息を立てている。おやすみ、と答えて私もあくびをする。あなたのがうつったんだ。やっぱりうれしくなって、手をまたぎゅうと握った。こうしてたらぐっすり眠れるかな。だいじょうぶ、って聞こえた気がした。春までちゃんとつないでて。だいじょうぶ。
なんだかあなたの夢を見れるような気がして私は、急いでどんぐりを飲み込んだ。