第95期 #10

「宇宙の穴。」

 ブラックホール
 大質量恒星の寿命が尽き超新星爆発した後、極限まで収縮され光さえ抜け出せない高重力場であり宇宙に開いた穴である


 西暦二二四六年八月
 太陽系第八惑星「海王星」軌道外側でブラックホールが発見された
 新型宇宙望遠鏡のトライアル撮影時に現れた画像の歪みにより発見されたのである
 その一報に世界は驚天動地をしたのは言うまでも無く
「太陽系崩壊」「宇宙人陰謀説」など井戸端会議の話題にもなるほどの大ニュースになっていた
 が、精密観測でマイクロブラックホールである事が判明、コンピューターシミュレーションによって太陽系には被害が及ばない事が判明すると人々の関心は薄らいでいった
 それでも「木星をマイクロブラックホールにぶつけるべきだ」と主張する熱狂的な人々が居たとか居ないとか


 人間の欲望は底が無い
 一年後に太陽系をかすめ飛び去っていくマイクロブラックホールを利用する方法を考えた
 「捕獲し無限のエネルギーを取り出す」「ワープ航法に利用する」数々の案が出ては実現不可能を理由に却下されていった。
 マイクロブラックホールの移動速度の関係もあり現存する技術を用いた「一年以内に実行可能」な案を優先させた結果「月面の電磁石式物資大量輸送設備マスドライバーで廃棄物を射出しマイクロブラックホールに投棄する」計画が世界規模で動き出したのである
 世界中から集められた廃棄物は特殊セラミック加工された箱に無造作に詰められると軌道エレベーターによって宇宙へ向かい定期航路を使い月面のマスドライバー基地へと運ばれていった
 数万個の廃棄物箱は二十四時間体制、一分間隔のタイムスケジュールでマスドライバーからマイクロブラックホールが移動してくる宙域へと射出された


 一年後
 廃棄物箱は長い旅路を終え目前に迫る宇宙の穴へと吸い込まれるのを待つだけであった
 全人類もその光景を見守っていた様々な思いが詰められた廃棄物箱の最後を見届けるために
 ついにその瞬間が訪れた廃棄物箱は宇宙の穴へと吸い込まれ――なかった
 マイクロブラックホールは小惑星を吸い込みながら何故か廃棄物箱だけは無視をしてその前を通り過ぎていくのである
 全人類は瞬時にその理由を理解した
「分別されていないゴミは投棄できません」と、マイクロブラックホールの入り口に看板で表記されていたからである。
 

 全人類の溜息が響く中、宇宙の穴は漆黒の彼方へと姿を消したのであった



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