第94期 #3
ベンチと鉄棒と砂場しかない、明らかに子供を対象として作られたと思われる団地郡の中にある公園に少し似つかわしくない学生服を着た坊主頭のチビとノッポのデコボコな2人組はいた。
彼らは手に金属バットを持ち素振りをしながら会話をしていた。
「スイングってこんな感じでいいかな?」
ノッポは下から上に掬い上げるようにバットを振った。
「いやもっと上から振り下ろした方がいいんじゃないかな」
見本を見せるかのようにチビは上から下にバットを振り下ろした。
「今、何時?」
ノッポは緊張しているのか少し声を震わせていた。
「もうすぐ11時」
それとは対照的にチビは、はっきりとした口調で答えた。
「ふぅー、もうすぐ時間か。大丈夫かな、ちゃんとバット振れるかなぁ」
「大丈夫、お前なら振れるよ」
チビの声が先程のノッポと同様にかすかに震えていた。
「智と一緒の病院でしかも病室も一緒だったらいいね」
ノッポがそう言うとチビはそうだなと言いながら微かに悲しみを含ませた笑みを浮かべた。
「あぁ、そういえば退学届け出したときの先生達の顔、面白かったね」
「俺とお前は学年でいつも上位の成績だったし部活もちゃんとやってたから辞める理由なんてないと思ったんだろ。俺達より智の方が遥かに上だったけど」
「そうだね、智、頭良かったよね野球部でもエースだったし」
「そういや智言ってたな馬鹿の一つ覚えみたいに甲子園行こうって、俺とお前がじゃあ電車乗って行こうって言ったらマジで怒ったよな」
「あったね、そんなこと。確か次の日、部室に目指せ甲子園って書いた自作のでっかい紙が貼ってあったよね」
「そうそう。甲子園なんて行ける訳ないのにな。同じブロックにドラフト掛かりそうな奴いるんだぞ、無理に決まってるだろ。まぁ、でも少しは乗ってやってもよかったかな」
「そうだね、・・・・・・あのさ一つ聞きたいことあるんだけどいい?」
「いいよ、何?」
「人をバットで殴るってどんな感じだろ、やっぱり感触とかあるのかな」
「そりゃ、あるだろ。奴らはその感触を何度も感じながら智を殴りつけたんだ」
チビは地面に金属バットを振り下ろした。
「ゴメン」
「いいよ謝んなよ、そろそろ」
「だね」
チビとノッポはカモフラージュに用意したグローブを持つとこの公園から200メートル程先にある高校へと向かった。