第94期 #27

音が聞こえる

時間が過ぎてゆく音が聞こえる。ごとんごとん、とか、ごろごろとか、ゴルフボールを入れるかごを重ねると、がしゃっ。
5秒間隔でドライバーを打つとバシ、バシ、バシっと過ぎてゆく。

ゴルフの練習というと意外と簡単に母親は小遣いをくれた。

驚いていたのも、始めのうちだけだった。

父親が様子を見に来て納得したあとは、週二回百発打ちペースでかよっている。

しかし、ここで打っているだけでゴルフがうまくなるとは、思っちゃいない、……といって、栄太も両親もどうしていいのか分っていないのだった。もっと基礎体力がいるのは分っているが、だからといってランニングやベンチワークで鍛えるような方向には行かない。まず、ゴルフクラブを使ってゴルフボールを打つのが練習だった。

そんなときに、気になる大人にであったのが、すこし前の夜の公園だった。がっしりとした大柄な酔っ払いは、栄太の担いだゴルフバックに目をつけたらしい。

アマゴルフ・チャンピオンだと自慢げにいい、ゴルフは受け取るものだといった。最後は、何か聞きたそうな顔をしてるなぁ……と朗らかに微笑むと、与えるのはゴルフじゃないのさ。

そんなこといいながら、アドバイスを拒否した。

聞くことさえ知らない栄太だから、なにを言ってる酔っ払いの癖にと、反発しただけだったが。

タツヤへの憤りに煮詰まって切羽詰った夜のガス抜きにはなっていた。栄太は気が付いていないが、酔っ払いと、担いでいたゴルフバックに助けられたのだ。

その後、試験は失敗、夏期講習はBクラスに振り分けられてしまった。

結局、タツヤとは距離を置き、少しずつ離れている。きっと、もっと離れていくだろう。

少年が無口になって、辺りの目線も気が付かない。夏はやってきてきっといつか去っていく。

「やあ、5秒打ちできるようになったね。今度は1分打ちに挑戦してみなよ」練習場のおじさんが言った。

「はい」
このおじさんの言うことは何か効き目があるので、栄太は大人っぽく答える。
「説明したとおり、まず、ボールを持つそのとき、時計の針が真上、十二時になるようにする。それから、ティーアップしてグリップ、肩、腰、足、と、ひとつひとつチェックする。そうだなぁ、こんどは、二十秒かな、……一発で一分百回で一時間四十分だ難しいかな?」

「はい、でも、やってみます」
「そうだ、挑戦してみなよ。ゴルフという勝負が見えてくるよ」

「はい」

なんか、子供らしさが消えてしまった。



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