第94期 #20

蚕室

 そのウェブサイトに並んだ女たちの写真が小学生の頃理科の実験で見た蚕の飼育箱に似ているのは当然のことで、格子状の仕切り板で縦三センチ横四センチに区切られた蚕室と同様、整然と並んだ写真もまたそれぞれが独立した部屋であり女たちはその奥で繭のように息をひそめ客を待っているからなのだが、あいにく写真の大半は口元までしか映っておらず、今は三十七枚が表示され半数は客が入室中であることを示す赤い枠線で囲まれたそれらの写真を見分けることは僕にはできず、あてずっぽうに青い枠線の写真の一つをクリックすると部屋で待機している女のライブ映像が表示され、白く埃っぽいワンピースを着たその女と一度だけ話したことがあるのに気づき、映像の下に表示された「入室」ボタンをクリックすると同時に相手の方から、この時間になると来る常連がいるの、その人かと思っちゃった、と話しかけてくるのへ僕の指は即座に返信をタイプ打ちし、《俺みたいな変態が他にもいるのかwww》、僕が会話に使う手段は書き言葉だけで映像と音声は女の側からだけ送信され女は僕の顔も声も知らないのだが、中には自分の姿を進んで相手にさらす客もまた大勢いて、女はちょうど今そんな客たちの一人について話し始め、その人はカメラを持ってて映してくれるんだけどいつも最初は誰もいないの、ただ部屋の中央のテーブルだけが映ってその上にガラスのコップが乗ってるのよ、それから五分くらいしてその人が来るの、首から下しか見えなくてぶよぶよしてる、全裸なの、《それを黙って見てるわけかww》、そう見られるのが好きな人と話してると落ち着くのよね、それからその人はコップを手にとって底を上に置きなおしてハンマーで叩き割るの、ガラスが水しぶきみたいに飛び散って、机の上に大きな破片が残るから手頃なのを一つ手にとって先の尖った方でむちむちした胸の乳首の上あたりをなぞっていくと蜜のように粘り気のある黒い血が染み出てきて忍び笑いにもすすり泣きにも聞こえる声が漏れ足でゆっくり破片を踏みつけ皮膚を破って足の甲の側に突き出した先端を見つめながら自分の性器をまさぐり始める頃から声はもう人間の声ではなくなってねえ聞いてる? 聞こえてるの? 最後の声は僕の指が女の部屋を閉じた後で聞こえ、聞こえるよと呟く僕の声も少し遅れて聞こえ、その間に僕が握りしめているマウスのカーソルは、青枠で囲まれた別の部屋を物色し始める。



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