第94期 #15
屋根裏部屋で片方だけになった「ガラスの靴」を眺めてシンデレラは心躍らせていた
お城の舞踏会での出来事を思い出し……
白いドレスを身にまといガラスの靴を履き憧れの王子様と踊ったあの瞬間を――そして愛おしい王子様のぬくもりを……
あれから幾夜目の午前十二時の鐘の音を聞いたのだろうか?
辛く厳しい継母と姉からの苛めにもあの瞬間を思い出すだけでシンデレラは耐えて心を躍らすことができた
そして、とうとう鐘の音が「福音」になるときがきたのだ
何処までも澄んだ青い空……太陽が緩やかに西に傾き始めた頃――
シンデレラが住む家の木戸が訪問者によってノックされた
恐る恐る木戸を開けるとそこには巷で噂になっている「ガラスの靴」の持ち主を探す城からの使者が立って――居なかった。
立っていたのは郵便配達員で右手には「ガラスの靴」ではなく一通の「封筒」を携えていた
配達員はシンデレラに封筒を渡すと足早に去っていった
一人残されたシンデレラは受け取った封筒の差出人が「魔法使い」であることに気がついた
「魔法使い」――その名前にシンデレラは興奮し心躍らせた
「夢の続き……」そんな言葉を呟きながら封筒を開け中の手紙に目をやった次の瞬間――シンデレラは膝から崩れ落ちた。
震える手に握り締められた手紙には「ガラスの靴他レンタル一式代請求書」と書かれていたのだった
正に文字通りシンデレラは「踊った」のだ――「魔法使い」の手のひらの上でクルクルと……。