第94期 #11
僕は子供を産むことが出来ない、身体の中に子宮なんてものは組み込まれていないから。彼の事が大好きだけど恋人になることは出来ない、僕の身体と彼の身体の器官は一緒だから……。
「結婚しよう」なんて言葉は当たり前になく、今の所「特別」が最高の言葉。別に結婚がしたいわけではないけれど、一生出来ないとなると憧れるところがあったりする。
「子供を育てよう」彼が言った、恋人ではなかった、正式な彼女がいたから、けれど確かに言ったのだ。
「俺にとってはお前も特別。」素直に嬉しいと思った「好き」とか「愛してる」みたいに嘘を言われるよりもずっと……けど、今回はそれを遥かに越える嬉しさがあった、どうやって?なんて考える時間も惜しくて「うん」と答えた。
「子作り」はそれから二日後の土曜日に開始された。
僕らの「子作り」に性的な行為は全くなく、紙と鉛筆、それから色鉛筆だけでいい、しかも十ヶ月十日待つこともない。
二人に似るように女の赤ちゃんを描いた、やはり美術大学へ進んだ彼はとても絵が上手い。
「二ヶ月毎に成長した姿を描くよ」完成した「子供」を愛しそうに見ながらそう約束してくれた。
「子供」の絵が12枚になったころ、彼の彼女が身ごもり、17枚目を描いてもらって一週間ほどで赤ちゃんが産まれた、その頃には彼女は奥さんになっていた。
奥さんは二人の邪魔をした僕を邪険になど扱ったことはなくむしろ、「私の先輩ね」といって電話をくれる程だった。けれどとてもじゃないが、赤ちゃんに会いに行こうとは思えなかった。
本物の子供が出来たら、偽物の「子供」なんて育てなくなると思っていたのにちゃんと18枚目の絵は届いた、さらに大きくなった「我が子」になんだか涙が出た。
彼に会わなければ行けないと「子供」が言っている気がした。
僕は彼に会いに行った、ベビーベットには僕らの「子供」にも少しだけ似た赤ちゃんが寝息をたてていた、愛しそうに見つめる彼は最初の絵が完成したときの顔よりも嬉しそうで、父親の顔になっていた。
「可愛いだろ」と言う彼に、僕は小さな声で「先生、おめでとう」と、祝福の言葉にさよならの意味を込めた。