第94期 #10

おおきなかぶ

 小さな村におじいさんとおばあさんと孫娘と、犬と猫とねずみが住んでおりました。おじいさんの一人息子であるお父さんとお母さんも一緒にこの小さな村で暮らしていたのですが、お父さんは都会で一旗揚げたいといって一人で村を出て行きました。お母さんは小さな村に退屈して、金髪の青い目をした男の人とどこかへ行ってしまいました。
 おじいさんは古くからの農家で、いくつかの畑を耕し、たくさんのおいしい作物を育てていました。あるとき、都会へ行ったお父さんが、どうしてもお金が必要なんだ何とかしてくれとおじいさんに手紙をよこしました。息子の願いは何でもかなえてあげたいのが親心、畑を一つ売って息子にお金を送りました。そうして何度となく息子の願いをかなえていると、おじいさんの畑は一つもなくなってしまい、猫の額ほどの庭と小さな家だけが残りました。おじいさんは庭を耕し、家族が暮らしていける分だけの作物を何とか育てていましたが、一度でいいからおなかいっぱい食べさせてやりたいと努力を重ね、びっくりするほどの大きなカブをこしらえました。窓からわさわさしたカブの大きな葉が見えたとき、おじいさんの胸は躍りました。むろんおばあさんも孫娘も犬も猫もねずみも。皆で大きなカブを引っこ抜きました。大きなカブの話はあっという間に広がりました。世界のいろんなところからいろんな人たちがやってきて、家族がしばらく暮らしていけるほど謝礼を置いていきました。すると、しばらく音信不通だったお父さんが帰ってきて、また何とか言いながら、その謝礼とそれからカブの種とその権利を持っていってしまいました。

 さてお父さんはシステマタイズされた広大な農場で、大きなカブを栽培しました。大きなカブは農場いっぱいゴロゴロと育ちました。ところが世間の人たちはとても飽きやすいので、大きなカブがそんなにゴロゴロとある光景を珍しがることもなく、誰も見向きもしません。お父さんは「くそ!いまいましい!」と怒鳴って腐りかけたカブを蹴飛ばしました。するとぐしゃりと崩れたカブはお父さんを飲み込み、お父さんも腐ったカブのようになってしまいました。

 それからおじいさんはどうしているかと言いますと、いつものように畑を耕し、おばあさんは繕い物をし、孫娘は家事をして、犬はワンワンと吠え、猫はにゃあにゃあと鳴き、ねずみはチュウと言いまして、今日もお日様がきらきらしているのでした。



Copyright © 2010 長月夕子 / 編集: 短編