第93期 #7
まだ逢えないあなたへ。
今日もまた失礼します。
あなたのことを知れば知るほど、「知らない」が増殖します。それは勢いのよい長大な滝のごとく、まるで底が見えません。
あなたの手紙を読めば未だ知らぬ顔を見て、あなたの写真を見れば未だ知らぬ声を聴く。わたしが想像力をたくましくすればするほど、「知らない」が尽きません。
そうやって少しずつ欠片を拾っても、完成に近づくどころか遠のいていくようです。まるで終わりの無いパズル。否、何世紀にもわたってずっと建築中のサグラダ・ファミリア大聖堂かもしれません。年月をかけたとしても出来上がる気配がないのです。とっても重厚な、あなたという存在はわたしの前に大きく立ちふさがっています。
出逢った、というか初めてお見かけしたのは、この広いウェブの海の中。つまらない、興味もわかない長い長い一日の仕事も終わり疲れきった金曜日の夜、偶然見つけたあなたの文章に惹かれ、思わず後先考えず感想のメールを出したのでした。
たしかそれは、はにかむような表情が見えてくる、やさしくかわいい文章でした。世界の片隅で、そっと小声でつぶやくように落ち着いた言葉で慎重に語っていました。
あなたが一日の始まりを告げる薄明るい朝焼け描けば、わたしには温かいオレンジが滲みました。
あなたが夏の華やかな大花火を描けば、わたしにはさわやかなグリーンが弾けました。
あなたが深夜に眠る穏やかな湖を描けば、わたしには暗いブルーが横たわりました。
あなたがしんしんと降る雪を描けば、わたしには光るホワイトが跳ねました。
あなたの言葉を通すと、わたしが絶望しきっていたこの世界のすべてが美しく輝いて見えるのです。そして、言わずもがな、わたしは一瞬であなたの虜になりました。
いつも画面の向こうのあなたのことを思います。あなたは何を見て、何に触れて、何を感じているのでしょうか。今もわたしが知らないあなたのことを知りたい。
けれども、知らないことが無尽蔵に増えても落胆はしていません。
あなたの住む美しい世界が、そっとカーテンの隙間から垣間見えたなら、それだけで満ち足りるのです。
あなたは遠い地にいて、みんなのためになる大切なことをしている最中。わたしが近づいては邪魔になる。だから、遠くから見守るのです。それだけは許してください。
まだ逢えないあなたへ。
いつまでも知らないことが増えることを願っています。