第93期 #17

みえないナイフ

学校の同じクラスに気になる女の子がいる。
その子はいつもみんなにいじめられていた。

なぜいじめられているのか、本人やいじめっ子に訊こうとは思わない。
なんとなく予想はつくからだ。
そう、その子は人見知り。

顔は、どちらかと言えば、かわいい、と思う。僕は。
……どうだろう、わからない。微妙なラインだ。
その子をよくいじめているのは同性の女子。
複数人がグルになって陰口を言いふらしている。ほら、僕のとこにも言いにきた。
こいつらの顔はその子に比べたら、どうみてもブサイクだ。
性格が腐りきってるから顔もそんな滅茶苦茶になるんだ。
「ちょっとかわいいからって調子にのってるわよね。性格ブスのくせに」
おまえらはなにもかもブスじゃないか。

男子も男子でその子をハブにしてる。
そのブスのせいでクラスみんながその子をハブにする流れになってる。
ブスの友達のかわいい女の子がその子に冷たくすると、それをみた男子がそれに同調して自分もその子に冷たくする。そしてその男子を好きな女子が同じく冷たく当たると、その女子を好きな男子が以下同上。
大体そんな感じだろう。みそっかす。

みんな彼女のことを勘違いしてる。
友達らしい友達もいなく、誰とも話さないから内気で暗い性格に思われがちだが、実際に会話してみるとそんなことはない。実は明るく陽気な性格だった。
ただ人見知りが強く、自分から進んで打ち解けられないだけで、仲良くしたいと思って話しかければ彼女もそれに応えてくれる。こっち側の気持ちの問題なんだ。

僕は彼女が好きだ。
彼女に電話をして、告白しよう。
「あなたのことが好きです」
そう言ったらすぐにOKしてくれた。
いままで誰にも告白されたことがなかったらしい。
そうして僕らは付き合った。

実際に女の子と付き合うのは初めてだけど、なんていうか、簡単にいき過ぎたからなのか、俺の女という感じがしない。
交際3ヶ月。まだデートもしてない。というか、会話すらまともにしてない。
学校で彼女と会っても無視してる。
向こうは俺を見つけると元気よく胸を揺らしながら近づいてくるが、校内に俺たちの関係を知られるのもどうかと思って「おはよう」しか言わない。
だって、キミと仲良くしてるところを誰かに見られたら、俺までハブにされそうだから。



そして彼女は死んだ。
自殺だった。
僕は彼女を助けてあげられただろうか?
死ぬ前になにかをしてあげられたんじゃないだろうか?
そう思うと、夜も寝つきが悪い。



Copyright © 2010 山羊 / 編集: 短編