第92期 #5

仕事が憎い今日この頃

 憎い…嗚呼憎い。朝日が憎い。騒がしく鳴り響く目覚ましが憎い。きれいにストライプにならない歯磨き粉が憎い。目覚ましテレビが爽やかで憎い。満員の通勤電車が憎い。有象無象の生徒が憎い。無愛想な高見の見物で嫌味な学年主任が憎い。高見の見物で禿げているお小言言う教頭が憎い。白髪交じりのにこやかな高見の見物の校長が憎い。
 とにかく憎い、嗚呼憎い。どうしてくれよう、この恨み、この憎しみを、誰が理解出来よう。引きこもり?一生そうして橋の下で暮らせ!イジメ?アルカトラズに押し込めてくれてやる!テスト?誰が作ると思ってやがるんだ!問題ばかりが毎日沸いてくる…クソクソクソ!
 毎日毎日毎日毎日毎日、クソがクソな有象無象と高見の見物かますクソ共の中で働く。新任のクソが教育論を語る。手前に変えられる有象無象だと思ってやがるのか!クソの分際で顔が良いから人気で有頂天かよクソ…。
 膨大に積み上がる資料はこなさなければならない仕事、ゴミ箱に入る仕事は終わった仕事。大量に積み上がる仕事に溺れているなか、クソが職員室の扉を開けてやってきた。
「先生…迷い猫が教室にいます」
 俺は便利屋でも無ければ、勿論猫の世話係でもない。クソ共の先生だ。クソ共のテストを作るのが、どれだけ面倒だと思ってやがる!
「…わかった、先生も後から教室に行くから、あまり刺激しないように」
「はい、先生」
 そう言いクソ共は出て行く。俺がクソ共の先生である限り逃れられない運命だ。高三にもなってその対応力で社会で生きて行けるのか?畜生は噛みつきもしない、だがしかしクソ共はクソな担任教師に報告に来る。期末の準備に追われるなかを、わざわざ報告にやって来る。たかが畜生ごときで…だ。
 嗚呼、仕事が憎い。社会が憎い。世界が憎い。全てが憎い。それでも何も変えることの出来ない自分が一番憎い。
 教室に行くと薄汚れた畜生が教壇の上に丸まって、窓から差し込む日差しを浴びながら眠っていた。
 ちくしょう!畜生の為に追われる時間を割いて来て、畜生は居心地良く眠っていた。
「ちくしょう…」
 つぶやきが喉から漏れる。自分が選んだ道だから、尚更憎かった。何もかもが救われない。それでも何も変えられない。それだけが事実だった。畜生の首根っこを掴みグラウンドに出た。
「行けよ!お前は自由でいれば良いだろ…俺にはここがお似合いだ」
 畜生は俺の顔を不思議そうに…ただ、じっと見つめていた。



Copyright © 2010 名乗るほどでも… / 編集: 短編