第92期 #24
ドキッとして振り返るとタツヤが抜き身の白刃のごとき金属バットを握っている。
「どうした、入れよ」逃がさないぞと、ずいっと迫ってくる。
「あ、あああ、……」
いきなりの斬り合いか、いやいや、殴り合いか。のどから心臓が飛び出すほど栄太。驚いた。
抜き身で迫ってくるなんて、卑怯なヤツだ。大胆不敵こいつは神経がない。どうしよう。
「どうした? なぐるぞ」
「うグっ! ……!!」それはオレのセリフだ。口惜しいことに笑っている。
「あぁっ、あああ、……」
本当に、本当に、卑怯なヤツだ。
「さっさとうちの中へはいれって云ってんだよ」
「ううぅ、ううう、……いや、か、かえるよ。ちょこっとよっただけさ」
「え、そう、じゃ送っていくよ。ゴルフの打ちっぱなしでもやってきたのか?」
「えっう、ちぃ、がううよ」
「なんだ、ゴルフの練習じゃないのか。高校生でもゴルフなら1億円稼げるといってたじゃないか。そらぁ、たしかにあんなに稼ぎ出せるスポーツすごいよ、なぁ……」
なんと、のー天気なんだ。タツヤはバカだと栄太、考えた。
本当にゴルフやって勝てると思ってるのか。ああ、こんなやつ目が大きくていい感じだとおもっていた自分が情けない。こんなヤツと友達だとおもうと自分に腹が立って、情けなくて、ああ、こんなヤツ。殴ってやる。……ッて、それはオレのセリフだあぁ……。
「ちょっと寄っていこう」
タツヤが道をそれて近くの公園に行こうといった。肩をぶつけて、栄太の向きを変えて二人で公園に向かった。
「試験煮詰まって、ここでバットの素振りしてたら酔っ払いがいてよぉ……」
ゴルフの話も、すげぇーなぁと言ってしまうと、後は、もう、どうでも良かった、女みたいに話すことがない。まったく、女ってヤツはどうしてあんなに話が溢れてくるんだ。
タツヤは、ゴルフをやりたいんだと、栄太は感じていた。
タツヤはずるいんだ。オレより自分がやりたいんだ。と、栄太。セリフを飲み込んだ。
「賞金だけで一億だ。ゴルフは現役が長いぞ」
「うん、長いよな」
「賞金だけで稼げるのは、試合が多いんだよな」
「うん、おおいよな」
野球より、全然すくないじゃないか。栄太、思った。
「賞金ってコトは勝てばいいんだよ。ことーんっと、穴の中にボールが落ちるだろ、あれは気持ちいいだろうなあ」
「ああ、優勝なら……な」
「試験の前に、夢への挑戦なんて余裕じゃないか」
酔っ払いが近づいてきた。
「ゴルフやったことがあるのかい?」