第92期 #23
123回目の自殺だった。俺は、点滴の針を抜いて機関銃を構えた。引金を引くと病室中が穴だらけになった。俺は壊れた窓ガラスに向かって助走し、地上456階の病室から朝の光の中へ飛びこんだ……
「何回やっても同じことよ」
眼帯をした女の子は月曜日のバナナを頬張りながら、ベッドに横たわる俺を見下ろしていた。
「あなたも食べる?」
女の子は、包帯の巻かれた俺の手に火曜日のバナナを握らせた。
「じゃあ君は何回自殺したんだ」
「この間、医師とかナースの前で78回目のピストル自殺をしたわ。でもあいつら、顔色一つ変えなかった」
病室の窓からは、飛行機や、渡り鳥や、水曜日の無力感なんかがゆっくりと移動しているのが見える。
「あたし、ずっと考えていたことがあるの」
眼帯の女の子は、病室のカーテンにぎゅっとくるまりながら俺を見た。
「でも、すごくヘンテコなの」
「教えろよ」
女の子はカーテンの中から、印籠を見せるような感じでバナナを出した。
「ここから、脱走する方法よ」
俺たちは出来る限りの準備を整えると病棟の出口へ向かった。途中で、守衛の男に声をかけられた。
「お前ら、ずいぶん楽しそうだな」
眼帯の女の子は、木曜日のバナナと金曜日のバナナをモミアゲ風に、俺は土曜日のバナナをチョンマゲ風に頭にくくりつけていた。
「あたしたち、脱走するの」
「なんだって?」
話はすぐに伝わり、出口のまわりに医師や守衛たちが集まってきた。
「いったい何のつもりだ」と一人の医師が俺たちに問いただした。
俺は手に持った日曜日のバナナに、ライターの火を近付けた。
「よせ!」
医師の顔はみるみる歪んでいく。
「君たちは病気なんだぞ!」
「あんたもな」
出口のロックが解除され、俺たちは口笛を吹きながら病棟を抜けだした。9歩だけ呑気に歩いたあと、お互いに顔を見合わせて走り出した。
「ねえ、追いかけてくるよ!」
俺たちは、モミアゲバナナやチョンマゲバナナを投げてやつらを遠ざけた。そしてエレベーターに飛び乗ると、俺は最後のバナナに火を点けて外に放り投げた。
「伏せろ!」
急降下するエレベーターの中で、俺たちは乾いた空のような爆発音を聞いた。
「君、生きてるか?」
「うん。でも生きてるって、どんな気分なの?」
「さあな」
俺は今朝の自殺を思い出した。
「なんかさ」女の子は、はねた髪の毛を指先でつまんだ。「すごくヘンテコな気分だね。生きてるって」