第92期 #12
私が知ったからって、世界がどうこうなるわけではないってことは、十分わかってるのだけれど、それでもナントカ先生を頼りにしたり、ろくに使いもしない裏技を集めてしまう自分を客観視すると、その姿はいかにもサルの末裔っぽくって、頬の引き攣りを抑えるのが困難になる。
他人と違うということは、個性と呼ばれると知りつつも、気づけば没個性でいたいと願う私も常にどこかで存在していて、外の世界と折り合いをつけ、ヤジロ兵衛のようにバランスをとろうとしている自分というものが、ある時は疎ましく、またある時は際限なく愛しい。そうして、この腹立たしくも甘美な感情を伝えるべき相手は、とうとう現れることはなかった。
薄暮の墓地の片隅で、冷たさをとうに過ぎ、感覚のなくなった指先が、まるで私とは別の意志をもつ生き物のように、つくりものの世界で存在し続けるための活動をやめようとしない。全世界を照らすバックライトは、未来への入り口であると同時に、二度と通ることの許されぬ奥津城の門、それでも面と向かい合っているつもりで、誰かを傷つけ、誰かに中傷され、そして逃げ場のないゲンジツに突然引きずり戻される恐怖が、私の体温をどんどんと奪い去っていく。
勇気を持て。まだ君は何もしていないのだ云々、と通りすがりの誰かが私の耳元で囁く。その言葉を真に受け、一歩前へ踏み出そうとすると、頭文字の某が私の肩を叩き、人生はすべからく思いつきで、ある日突然悟りが天から降ってくる前にまず何を思いつくべきかをよく考えるよう諭してくれる。別の誰かは、生きていれば自ずと幸不幸保存の法則が働き、今はハンチクでもそのうち何とかなるものさと嘯いてくれる。ハンチクって何? と私が聞いたとき、それはハンカチのような薄っぺらなものだと、そう冗談めかしたのは誰だったか。
ずいぶんと長い間ひとりだった気もするし、多くのひとに囲まれていたようにも感じるけれど、ひとたび瞼を下ろしてしまうと忽ち意識は混濁し、分厚い鉛の壁に覆われたシェルターへ引き戻される。そうして、私を避け続ける父、恨み言ばかりの母に対する当てつけと、自分で自身の存在価値を推し量るためそっと死んでみたのが先週の日曜日。
ああ。もっとにぎやかな場所にしたらよかった。
蛆が湧き、日に日に私のからだを蝕んでいく。
ウジムシども、私に集るな、と叫びたいのだが、死んでいるのでさすがにそれは無理なのであった。