第91期 #14

ものおと

 深夜に鼻毛をぬいた。その鼻毛が昆虫の脚のようにふとかった。オオクロアリの脚くらいある。かなしくなった。鑿で丸太をくりぬくようにカミソリで鼻腔をそっているからだろうか。
 俺の部屋の窓から田無タワーは見える。ここの周辺は地形がわるいのだろうか。大雨が降るとアパートの一階は床下浸水してしまう。俺は二階に居住しているので安心している。ちょっとのちがいでこんなにも。
 小学校低学年のころに港の風景図画コンクールで金賞をとったことがある。一等だ。その表彰式に皇族のひとがきていてそのひとからメダルをさずかった。日本の象徴のひとだ。どきどきした。
 高学年になって知ったのだが海上保安庁がオーガナイズした開港一〇○周年イベントに附随するコンクールだったそうだ。才能があるのかとおもい下京して武蔵野美術大学の油絵科に進学したもののいまはこうして会社員をしている。よくのんだくれる。酒はすきだ。酒はいい。
「二時間くらいなら」
「二時間しか?」
「でもサービスしてるつもりなんだけど」
 大学時代のしりあいの女と会話してなぐさめにしてみたりしている。家によんで台所から居間にいる女に声をかけて近況をききだしながら飯を炊きエビの背綿をとりのぞく。そのエビは老酒につけこみくさみをとる。エビのチリソースはややてまどるが万人にすかれる味で失敗もすくない。
 それと玉子スープでもこしらえてくわせてやれば手料理はいいねなんていわれて相手を満足させることができる。
 これまで生まれてきた人類がどれだけ満足しながらしねたのかとかんがえると俺はいまここでしんでもいいのかもとおもう。みだりにこんなこと他人に言わないが。
 二度結婚していて離婚もおなじかずだけしている。女にはちょっとうるさい。さいげんのない愚痴をきいたりするのは勘弁してほしいといつも思ってる。むずかしい問題をかんがえないようにしてからはこころがとてもかるくなるようになりずいぶんと生きやすくなった。時代はみないことにしている。さけでいしきをよくとばす。
 かんむりをかぶりときどき王様になった気分でゲームなどをしているとき人生のなかでもっとも最高のひとときだとさいきんになってよく分かるようになった。ふんべつがついたということはすばらしいことだとも思う。
 ときどき、がしゃんとものおと。ふりむいて見るとなにもなし。あれはいったいなんなのだろうか。だれかに教示してほしいんだが。



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