# | 題名 | 作者 | 文字数 |
---|---|---|---|
1 | 着席権 | 森 綾乃 | 1000 |
2 | とある学者の奇妙な冒険 | アンデッド | 953 |
3 | 流星群 | A- | 1000 |
4 | 存在感 | 曖昧 | 443 |
5 | 『死せる美術のためのサクリファイス』 | 石川楡井 | 1000 |
6 | すみれ | 糸原太朗 | 817 |
7 | 思い出と記憶の間 | 沢木月子 | 905 |
8 | 四月一日 | 中崎 信幸 | 764 |
9 | 竜が飛ぶ日 | 彼岸堂 | 1000 |
10 | 悲しみの中で見たものは | ユウキ | 452 |
11 | 見習い魔術師と猫「雨空と猫と僕と」 | 雪篠女 | 940 |
12 | はぐるま | クマの子 | 1000 |
13 | 蹴られた背中 | おひるねX | 999 |
14 | 結婚式のスピーチ | 朝野十字 | 1000 |
15 | 青春 | 金武むちむち宗基 | 860 |
16 | おんなじ毎日 | 高階あずり | 998 |
17 | 男は風船を毎日作っている | 宇加谷 研一郎 | 1000 |
18 | ヂアディクト | 高橋唯 | 998 |
19 | ひなどり | わら | 1000 |
20 | 曇天 | のい | 656 |
21 | あのとき | euReka | 991 |
22 | 泉 | qbc | 1000 |
23 | 儀式 | 多崎籤 | 1000 |
24 | アルタイルの扇 | えぬじぃ | 1000 |
煙草をふかしながら図鑑をめくる男、楽しそうに語らう二人の中年女。一匹の動物が、午後のオープンカフェでくつろぐ人々を見た。過不足ない陽だまり、その調和と均衡を動物はじっと見た。柔らかな毛が、冬の気配を含む風にそよいだ。
動物は空いた椅子の一つにそっと近づくと、大きく伸び上がり腰掛けた。男は図鑑から顔を上げ、中年女らの声は途切れた。動物は周りが自分に注目しているのが恥ずかしかったが、機嫌よさそうに後足を交互にぶらぶらとさせた。
ウェイトレスは、動物を認めて顔をしかめた。美しい女だが、シニョンからは一筋後れ毛がこぼれ、ストッキングは小さく伝線していた。女は上手に笑顔をつくると、楽しそうな動物のもとにやって来た。
「失礼ですがご注文はお済みでしょうか」
「ううん、何も頼まないよ。ちょっと腰掛けているだけ」
女はうんざりしたが、努めて丁寧に言った。
「では、こちらでのご休憩はご遠慮下さい」
「えっ、なぜ」
「なぜって――ここはお茶にいらしたお客様の席ということよ」
「ふぅん、そうなんだ。じゃあ、お茶代を持たない僕の席はどこだろうか」
「そうねぇ、あの噴水の傍にあるベンチかしら」
「うん、あちらもなかなかよさそうだ」
動物がなお嬉しそうに言うのは、女を加虐的にした。
「あら、でもあなた税金は納めているの」
「税金」
「あれは東京都が税金で設置したベンチよ。動物が腰掛けてはいけないかもしれないわ」
「でも――あんなに小さな子供も利用しているようだけどね」
弱々しく口答えする動物に、女はますます意地悪になった。
「きっと彼の父親か母親は、勤労及び納税の義務をはたしてしているわ。それに彼だって、もう二十年すれば立派に社会で役立っているでしょうね」
つまり悪意とは娯楽の一種である。動物は俯き、ぽろりと涙をこぼした。
「動物が腰掛ける場所はないようだね」
うなだれて去る動物の、小さな縞々の尾。中年女たちは耳打ちしあった。女はやりたいままに無知な動物をいじめた自分が恥ずかしくなり、急いで動物を追った。
「がっかりしないで、これあげるから」
ポケットから黄金糖を取り出して動物に与える。動物はちいさな声で礼を言うと、ぎこちなくセロファンをむき、口の中で黄金糖をカラカラさせながら植え込みに消えた。動物一匹を吐き出し、過不足ない陽だまりが戻った。眼鏡の男はすっかり冷めた珈琲を一口飲むと、おもむろに図鑑で先ほどの動物を探した。
*
イタリア史上最悪の水害が始まる前、とある学者が雷に打たれて死亡した。
大水害後、彼の腐乱死体がフィレンツェで見つかる。
それから遙か後のこと――。
*
【『とある詐欺師の魔法の杖』おまけミニショートショートその1】
『期限切れの言葉』
円形の小さな窓の外では、赤砂の景観がどこまでも広がっていた。
砂面には曲線的な凹凸はあっても、足跡などはまるでない。
小窓の内側にあるのは、居住空間。白を基調とした極めて簡素な部屋。
「愛してる」
部屋に備え付けの小綺麗なベッドの上で、男が隣に座っている女の耳元に甘く囁いた。
そうして男は女の腰に腕を回したまま、彼女の返答を待っている。
男のとろけるような言葉を受けて、女はピクリと反応した。ほんのり潤んだ綺麗な唇が静かに動き出す。
『期限切レデス。期限ヲ更新スル場合ハ、スロット二、カードヲ挿入シテ下サイ』
男は落胆の表情を浮かべる。だが気を取り直すと、すぐに懐から有効残高のあるカードを取り出した。
そして女から言われた通りに、慣れた手つきで彼女のスロットにカードを挿入する。
「愛してるよ」
男は、再び甘く囁いた。前回よりも想いを込めて。
「――私も愛してるわ」
女も満面の笑顔で百万年続く愛の言葉を返す。
男は満足げに優しく女を抱きしめると、いつも通りの熱く激しい口づけを交わした。互いの四肢を絡ませ、ベッドが軋む。
そうして、火星収容所の夜は今日もまたゆっくりと更けていった。
*
とある学者が、イタリアのフィレンツェで立派な死体となり、腐乱し始めていた。
そして体内で蛆虫も涌き出していた頃のこと。
摩訶不思議、オタク大国日本では――。
*
【『とある詐欺師の魔法の杖』おまけミニショートショートその2】
『インコ』
「オハヨウ、オハヨウ」
インコの声がして、俺は目を覚ました。
俺はベッドから起き上がり、毎朝起こしてくれる律儀なインコに優しく声をかけた。
「おはよう」
朝の挨拶を済ませて、いつも通りインコの籠の戸を開けてやる。
「オハヨウ、アイシテル。キョウノアサ、ツクル」
インコはそう言って籠から這い出ると、エプロンを着て台所に向かった。朝食の準備を始めている。
俺は、いそいそと朝食を作るインコの後ろ姿を見て、つくづく思った。
「インコの裸エプロンぱねー」
岡に生えた芝生は、先ほど降った雨のせいで濡れていた。
「嫌だよ、こんな所で寝転ぶの」
息子が反対しはじめる。
「星見たいけどさ、濡れちゃうなら帰るよ」
「ちょいちょい、落ち着けよ。ちょっとぐらい濡れたって平気だって」
「ダメ。お母さんにしかられちゃう」
「いいって、男がいちいち気にすんな。ほら、座れ」
「ダメだよ〜」
妙な意地をはるところが、母親に似てきたなあ。
それは、日曜の昼。のんびりと新聞を読んでいると、ある記事が目についた。『やぎ座アルファ流星群、到来』と書かれてあるその記事は、とても小さなスペースにぎっしりと文字が詰まっていた。
「おい、克久」
「なーに?」
名前を呼ぶと、息子が元気よく走ってくる。ウルトラマンごっこをすると勘違いしたのだろう。
「ウルトラマンごっこしてくれるのー?」
案の定、目を輝かせながら訊いてくる。違う、違うって。分かったからスペシウム光線はやめろよ。
「これだよ、しし座アルファ流星群」
「やぎ座だよ」
「あ、ごめん。やぎ座アルファ流星群ね。これ、観に行かないか?」
「行く行く! 僕、やぎ座あるふぁー流星群みたーい!」
というわけで、その流星群を観るために近所の岡まで連れてきたのだが、突然の雨によって岡は濡れていて――。
「嫌だよ、僕、帰る。家でウルトラマンと一緒に遊ぶんだ!」
「お前が来たいって言うからだろー。俺はな、克久が行きたくないって言えば、行かないつもりでいたんだ」
「嘘ばっか。それに、こんな事になってるって知らなかったんだもん」
確かに。
仕方なく、持ってきたタオルで芝生を拭いた。
「ほら、これでいいだろ」
「ん……」
まだ完全に納得しきれてないようだが、とりあえず座ってはくれた。
「もうちょっとで、星がいーっぱい来るからな」
「あっ、見て!」
克久が指を指したその先には、流れ星が光っていた。
「あそこにも星が! あ、こっちにもある。見てみて、ほらお父さん、早くしないとどこかへ逃げちゃうよ」
先ほどの嫌気はどこへやら。
「大丈夫。星さんたちは逃げていかないよ」
「ホントに?」
「ああ、地球をぐるっと一周回って、またこの場所に帰ってくるから」
「いつで帰ってくるの?」
「んー、多分、数年後ぐらい」
下らないジョークを言ったせいか、息子が睨んでくる。それでも私は、これ以上ない幸せを感じていた。星に囲まれながら、息子と一緒にいれるなんて。こんな人生でも、捨てたもんじゃないよな。
彼はクラスに一人くらい居る、そんな感じの人だった。
僕の教科書の偉人に描く落書きが妙に上手くて、誰よりも早くお弁当を食べ終わってて。
特にコレといった印象もなくて、本当に、それくらい存在感のない人だった。
のに、
「〜〜くんは、ご家庭の事情により転校することになりました。」
彼のいない席が寂しい、
落書きのない綺麗な教科書が寂しい、
お弁当を一番に食べ終わり、早く遊びに行こうと言う声がないのが寂しい、
彼が、僕に何も言わずに転校してしまったのが、酷く寂しくて悲しい。
ただのクラスメイトだと思っていたくせに、
「なんで僕に何も言わず転校したんだよ。」
なんて昔からの親友のような愚痴をこぼす。
彼が僕にとってどれだけ存在感の大きい人だったかなんて、今更気づいてももう遅かった。
彼はいない、もういない。
僕に何も言わずに、この地を去った。
存在感のない僕と彼。
それでもお互いの存在だけはしっかりと感じていると思っていたのに。
意識していたのは僕だけだったなんて、
酷い裏切りを受けた気分になった。
僕は本当にヤな奴だ。
可能であれば黙秘を続けたい。自分はあの一件には無関係で、共謀すらしていない。あの日、幼馴染に招かれガレージに赴いてすらいない。招かれたが断った。なぜなら彼とはさほど親しくもなかったからだ。昔から何を考えているか分からなかった。親にもあまり付き合うなと念を押されていた。だから自分はあの日、あそこには行っていないし、何も見ていない。何も知らない。
ガレージには彼を含めて四人の男がいたらしい。その内の一人は自分じゃない。
女は、友人の一人が連れてきた。薬物に興味があると洩らしていたそうで、半ば同意の上での拉致だったようだ。彼はまず女に薬を渡した。女は初めて体験するドラッグに気分を悪くさせ、ガレージの床に横たわった。三月十二日の明け方のことだという。二人の男が女の衣服を剥ぎだすのを、彼は壁にもたれ掛かって一服しながら見つめていた。女が抵抗空しく素っ裸にさせられると、彼は立ち上がった。まず、頬に平手で三発。床に二度、頭を叩き付けられた。
かつて一大センセーションを巻き起こしたコンクリート詰め殺人を覚えている。彼もまたその事件を知っていた。あの事件には芸術性がないと語っていた。ガレージの隅に、機材は整っていた。他の男二人に女の体を押さえつけておけと命じて、彼は作業に入った。両足を宙に放ち、股間を露にさせられると、女は漸くそこで悲鳴を上げた。細長い金属パイプが膣に挿入されると、女は身を捩った。業を煮やした男はシャベル一杯分セメントを掬うと、女の口にそれを詰め、忽ち大人しくなった女はその後、ゆっくり自身の胎内に流し込まれていく異物の動きに合わせて、腰を上下させることしか出来なくなった。
夜が明けて、疲労しきった男たちに囲まれるように女は横たわっていた。はみ出したセメントは生乾きで、一見すれば出来損なった石像のようだ。内側からセメント詰めにされた女は全身をぴくぴく躍らせて、ゆっくり立ち上がった。動くたびに股間が裂け、血と砂の塊が床にぼとんと落ちた。
セメントで固められた女の唇の端が微かに震えた。すかさず背後から彼が羽交い絞めにして張りの失った乳房に爪を立てて揉みしだきながら、女の肩越しに衒いもなく笑った。力が入ったのか、女の下腹部が裂け、血が噴出し、そのまま崩れ落ちた。その時飛んだ血しぶきの、一滴一滴を覚えている。
それでも自分は何も知らない。動機や芸術性など……これっぽちも……。
すみれ
僕は下町の長屋で生まれ育ち、凡庸な幼少、少年期を過ごした。そこには貧しいながらも人々がさまざまなものを共有できた美しい時代でもあった。
僕の心がまだ嫉妬を覚えず羨望する事さえ知らなかった頃、どちらかと言えばワンパクではなかった僕は、春には桜の木の下で女の子とママごとをしたり、夏には浜辺で一人砂の城を作ったりしていた。
僕の隣りのおじさんは着物の作家で仕事場に子供を入れるような事はしなかった。騒がしいと言うのが主な理由である。でも僕だけは特別に入室を許されおじさんの描く模様をあきもせず一時間でも二時間でも眺めていた。
「あの子、アホちゃうか?」おじさんはそんな事を僕の母に言っていたらしい。
三時になると一人娘の雅ちゃんがおやつにお菓子とジュースを持ってきてくれた。僕の目当てはおやつと雅ちゃんの笑顔だったかも知れない。雅ちゃんはもう年頃で婚約者らしき男の人がよく訪ねて来た。
雅ちゃんはよく僕をいろんな所に連れて行ってくれた。その頃の僕は乗り物酔いが激しく、そのために僕と雅ちゃんは徒歩で数時間かけていろんな町やお祭りに出かけた。
「ぼん、足どうもないか?ちょっと一服していこか?」雅ちゃんは時折心配そうに僕に尋ねた。―- 僕は雅ちゃんと一緒に歩けるだけで嬉しかった。
雅ちゃんが嫁ぐ日、僕はただ雅ちゃんの花嫁姿の美しさにあっけに取られた。雅ちゃんの家には色々な花がたくさん贈られ、並んでいた。それに負けじと思ったのか僕は原っぱに向かい一番綺麗な花を摘んだ。これが僕の覚えた初めての嫉妬かも知れない。そして僕は急いで家に帰り、雅ちゃんに差し出した。
「ぼん、アホやなぁー・・すみれの花そんな風にちぎってしもたら、すぐ枯れてしまうやんか・・・・・そやけど、ありがと・・・・」雅ちゃんはそう言って優しく微笑みながら僕をしかってくれた。
翌日、もう雅ちゃんの居ないおじさんの仕事場に入ると、ガラスのコップに僕の摘んだすみれの花が一輪挿してあった。
楽しい一日が始まるはずであったが、男の表情にはいらつきがみられ、小さな車の中の空気は重く、とぎれがちの会話の空回りが続いた。女の頭には、出発して間もなく小さな不安がよぎり、それはやがて女の意志とは裏腹に大きくふくらんできていた。
無理に男に週末のディズニーランドをねだったのだった。「こんなことをするべきではなかった。」と思う。こんなこと、とは、男を困らせようという幼稚な思い付きであり、空虚な遊園地訪問であり、その、あたかも恋愛の象徴ででもあるかのような明るい場所に二人で立ってみたい、という少女じみたおねだりであった。「不
倫」という言葉が盛んに使われた1980年代の終わり、女は灰色に光る高速道路の上で何度目かの後悔をしていた。長い間、恋はただ熱く、会えさえすれば満足があり、潤いに包まれた。女も男も同じように熱かったが、違っていたのは女はその熱さによって離婚ができたのだが、男はその熱を結婚生活と恋を両立させ得るパワーに変えてしまったことだ。そして男はそれを充実だと錯覚していたのかもしれない。女には人並みの独占欲も生まれていたが、自分がやり得た離婚という偉業を男にできぬはずはない、と信じていたのはいつまでだったか。二人の時間が止まればいい、と思う者達もいるだろうか。「心中」というのがそれだ。小説の中だけのこと、と思う。男から離れる決心を何度もし、その度に崩れ、八年の月日が流れた。今さら休日の遊園地などに何の意味も無いのだった。遠い所に新しい恋をみつけたかった。とにかく遠いところだ。タクシーや電車では戻れないところだ。
二十一世紀になり、女はかつて希望したように遠い所に居る。平穏な暮らしの中であの男を思い出さないか、といえば、そうではないのだが、あの休日のディズニーランドへ行った日のことは、行く途中の車内の緊張と帰宅時のことしか思い出せないのである。いや、行かずに引き返したのだったか。そういう記憶も無い。あの夜、部屋のドアを開け、いくぶんひんやりとした中に飼い猫の声を聞いた時は実にほっとしたものだった。女は一日中、ガスストーブを消し忘れたのではないか、という心配にとらわれていたのだから。
「おまえ、知らなかったのかよ」
「そんな話、聞いてないよ!」
「マジで?! 早く奥さんに連絡した方がいいぞ」
「まさか、うちのに限って……いちおう確認はしてみるけれど」
「あんな美人の奥さんもらえば、まわりが見えなくなっても致し方ないとは思うけれど、おまえ、新聞くらい目を通せよな」
「まさか、そんなことになってるなんて思いもよらなかったよ……。そういえばあいつ、二、三日前から何だかせわしそうだったからな。しかし、この政権はとんでもないことしやがるぜ……。あっ! すまん、家に電話してくるから、またな」
「ああ、奥さんが出てくれることを願ってるよ。――まったく、こんな大事なことも知らなかったなんて、どうしようもないヤツだな……」
政府は景気の悪化によって不当な扱いを受けている、容姿が際立って美しい女性たちを救済すべく、美人特別救済法を制定し、本年四月一日より施行いたしました。
これは、容姿が端麗であるにもかかわらずまっとうな職業に就けず、いわゆる派遣社員などによって地位を虐げられている女性について、その容姿に似合った職業と待遇を保証するものであり、対象は低賃金ゆえに仕方なく結婚しなくてはならなかった女性にまで広げられております。
これからは、美人であれば容姿に似合った職業を自由に選択でき、職業だけではなく将来の伴侶に於いても似合った相手を選ぶことも可能になったのです。
これまでは、美人であっても低賃金のために生活していくのが困難であった、いわゆるワーキングプアと呼ばれていた女性たちが、安定した職業に就いているという安易な理由だけで、彼女たちとは到底不釣り合いであるはずの男性たちと、「結婚」という永久就職をしなくてはなりませんでした。そんな理不尽極まりない時代に、やっと終止符がうたれることになったのです。
美人に幸あれ!
結局上層部の意見は通ってしまい、戦線に『竜』が投入されることとなった。
それからの展開は早かった。
『竜』はかつて最強と言われた『猛禽』の名を冠する兵器を大隊分単独で相手にしても勝つ化け物。それが千にもなれば普通にやってる内は勝てるはずがない。
『竜』が来て次に空を飛ぶのは『竜殺し』だ。かつての核なんかと一緒にしちゃいけない。星に消えぬ傷を残す最悪の兵器だ。
ちくしょう、ここまで予想通りなのか。俺達が国境を失くしていくにつれて世界を滅ぼすための時間が短くなる。竜と竜殺しが空で弾けて混ざる。
「お前さんはどうしたいんだ」
レフターが俺に尋ねる。竜のくせに熱心に人語を勉強し話せるようになった希少種だ。
そして、俺の唯一の親友。
「わからん。もう俺一人が責任を負うレベルじゃない」
「でもお前さんは責任を感じている」
「……言うなよ」
あの時俺が竜の遺産をサルベージしなければこんなことにはならなかったのか?
そうじゃないだろう。そうじゃない。
俺は何で竜に平和を求めたんだ。『竜が何故この星で眠りについたのか』その理由を何故考えなかったのか。
駄目だ、どこまで言っても責任は俺にしかない。ような気がする。いやそうなんだ。俺だ。もう後戻りできない。
決意を固めたのはレフター以外の全てを失った瞬間だった。
「レフター、一緒に飛んでくれ」
「もうこの星は死ぬのにか?」
「一人でも多くの人間を星と共に逝かせたい」
「自己満足だな」
「構わない」
「そもそも我々だけで倒せると?」
「そのためのお前だ」
「……よかろう」
レフターは結局笑顔を習得できなかった。当たり前だ、骨格が違う。
でもレフターは笑顔を練習した。
「人間は感情が表せていいな」
それからあいつの練習は始まったんだ。
俺には今、レフターが笑ったように見えた。
人も竜もじじいになるとひょうきんになるようだ。
黒い空から竜と機械の残骸が落ちてくる。
紅と黒の雨が交互に降る。
稲光が絶え間なく響く。
どす黒い海が荒れ狂っている。
昔はこれが蒼かったって?
冗談だろ。
俺達は翼を広げている。
本当はもっと、素晴らしい世界を夢見たのにな。
はるか向こうで竜と兵器が殺し合いをしている。
俺はその両方を殺す。
ヒーローに憧れた俺が人類に引導を渡すなんてな。
「だが格好いいじゃないか」
レフターがまた笑ったように見えた。
こいつと出会えたのだけが、俺の救いだ。
私は小さい頃に捨てられた。
だから、親も知らないし、自分の名前もわからない。
私は、ひとりだった。
毎日一人、町をさまよい歩く。
私をかわいそうに思ったのか、たまに食べ物を分けてくれる人やお風呂に入らせてくれる人はいたけど、私を引き取ってくれる人はいなかった。
(このまま孤独に死ぬのかな・・・)
ときどきそう思いはしたが、でもつらくはなかった。
数日後、いよいよ助けてくれる人もいなくなり、私の体力も限界が近づいてきた。
(もう、だめだ・・・)
私は、そこで意識が途切れた。
次に目がさめたとき、私はなぜか暖かい家の中にいた。
「いったい・・・誰が・・・」
「おや、目がさめましたか」
後ろから、男の人の声がした。
「あなたは?」
「私は隆と申します」
「隆さ・・・」
バタン!
「!!大丈夫ですか!?えっと・・・」
「雛・・・」
「雛さん!しっかりしてください!雛さん!」
「ありがとう。孤独な私を助けてくれて・・・」
「雛さん!死ぬな!死んじゃだめだ!」
「ありが・・・と」
時が、止まった。
私が最期に味わった、人の温もりは、優しく、暖かかった。
急に降り出した雨。サメザメと言うべきか、シトシトと言うべきか実に悩ましいほど中途半端な雨。
また、くだらないことを考えているのかい?
濡れた体毛を酷く嫌そうに体を震わせていた、小さな相棒が僕の空を眺める顔をジッと見ていった。
「君にとってはくだらないことかもしれないけど、僕は真剣に悩んでいるんだよ。サメザメかシトシトか、どう表現すべきかってことをさ」
僕は、こちらを切れ目の目で見つめる彼女の顔を見ながらそう言い、また薄暗い灰色に染まった空に目を戻した。
そんなくだらない事を考える暇があったら術式の一つでも頭にいれてほしいものだね、彼女は皮肉めいたことを言いつつも、僕のローブに体をこすり付けて濡れた体毛をどうにか乾かそうとしていた。
でも、それは無理な話だ。僕のローブもびしょ濡れだもの。それこそ無駄な考えというものだと僕は思うのだけれど・・・・・・。
基本中の基本、炎を操る魔術式くらい早く覚えてくれないと、私としてはとても困るんだけどね。そう、彼女は言う。
僕は彼女が言うように基本中の基本の術式すら操れないほどの落ちこぼれだ。どうして彼女が、僕の補佐になったのかは、わからない。
彼女の仕事は僕が立派な善意ある魔術師になるように補佐することで、僕は見習い魔術師だ。
「君は、炎の術式が操れるんだから自分で、火を起こして焚き火をすればいいじゃないか」
という、僕の意見に耳を貸したのか、貸さなかったのかはわからないが、目を細めて顔をゴシゴシとこすった彼女は、湿った枯れ枝を集めて焚き火を起こした。
猫にも劣る自分が少し情けない。しかし、魔術というのはあせってはいけないというのが、僕の師匠(せんせい)の言葉だ。焦れば、厄災をもたらし、静かな落ち着いた心ならば善なる力となる。いつも口すっぱくいってたっけ。
僕は空を見て、表現を考えるのをやめ、目を閉じて静かに術式を口にする。
いつもと同じだ。小さな炎の粒が掌を舞う。僕の魔術はこれで精一杯。
役にはたたないけど、綺麗だとは思うよ。
その舞う炎の粒を目を細めて見つめて、慰めるように前足をポンと、僕の腕に乗せる。
いつの間にか雨は上がり、雲の隙間から差し込む光が掌で舞う炎をより美しく輝かせていた。
町は全ての色素が抜かれたようだった。影の無い、黒い輪郭線だけが残る、光沢の無い白の世界。梅の花が咲き始めた頃だった。
電車の座席に座っていた。最後尾、運転席の向こうへ流れる線路は、右に左に忙しく曲がって、林や家、道路の間を縫っていた。
林の木々はみな白かった。白樺よりもずっとだった。葉の擦れ合う音さえも、空虚さを覚えそうな景色だった。踏み切りや信号も同様だった。影をつくらない太陽は、今どこにあるのだろう。
景色と線路の並んだ枕木は、一緒に車窓の向こうへ流れていく。全てがのべつ幕無しに流れていく。連続する枕木は白蛇の背中のようにも見える。線路の視界から外れた先で、景色は折りたたまれているのだと思った。世界は直方体の中にあった。その直方体は大きな蛇の上にあった。
電車は揺れていた。電車が線路の上を跳ねていた。だがまた車窓の向こうを眺めていると、流れゆく線路が電車を跳ねさせているように思えた。線路が電車の下で景色とともに走っていった。車輪が勢いよく回っている。電車と線路に挟まれた車輪が僕をここに止まらせる。景色が僕を置いていく。
――そんなようだと思った。影も表情も景色の向こうへ吸い取っていってしまう白の世界はこわい。そう思った。
流れる景色が速度を落とし、電車は止まった。電車は駅のホームに着いた。小さな無人駅だった。ホームの向こうに見える丘では花見をしている人たちが見えた。出店も並んでいた。
花見。丘を登ってみる。丘にあった梅の花はみな、きれいに白い。
写真を撮っている人がいる。梅の絵を描いている人がいる。描かれたそれらもみんな白かった。
ジュースを並べた出店。小さな魚をたくさん泳がせている出店。気付かなかったがこれは金魚だろう。ビニールプールに浮かんだ水ヨーヨーや、りんご飴の出店もある。色の無い風船はみんな同じように見える。白い卵がたくさん浮いているように見える。それらがみんないつか釣り上げられるのを待っている。りんご飴も同様だ。
飴屋の横で、大きな花の付いたビーチサンダルを履いた女の子が立っていた。彼女は小さな手で大きな飴を僕に差し出した。白と黒の渦を巻いた棒付きキャンディーだった。
サカー。ロリポップ。それは君のだろう? 僕はもらえないよ。
僕は白い花見を終えると丘から駅に戻った。また次に来た電車に乗ろう。空に雲は見えないが、太陽がいつ沈むのかは分からなかった。
横林栄太は静かにドアを閉めた。
夏至の太陽のように真っ白く怒りの炎は燃え上がっていた。
いつもと同じ道だが栄太は何も見ていないのだった。決めた心に従っているだけだった。
黒猫が道端に飛び出して栄太を見てあわてて向きを変えた。そして、諦めたようにまた暗闇に溶けた。
「黒猫が横切らなかった。これは成功する。裏切り者を抹殺してやる」
狂ったように愉快だった。歩幅が大きくなり肩のゴルフバックの中のドライバーとサンドエッジに挟まれた金属バットがコンコン音を立てた。
「よし、まず、はじめにバットを使おう」
にやりとする。前から来る若い女が目をそらした。
そ知らぬフリの横顔。いい女だなぁ、そうおもいながらすこし静かに歩く。目立たないほうがいい。
コンビニを見て、栄太、ひらめいた。指紋だ。証拠を残してはいけない。日本の警察は不正はしない。そのいい証拠がDNAだ。別人だと証拠が言えば死刑だったのが無罪になる。
寄り道してゴム糊をハンドクリームみたいに薄く塗った。
ひひひ、掌紋も消した手の平べったり。このゴムの薄皮は滑り止めにもなる。いいぞ、とっとと殴って終わりにしよう。
近所のお父さんがゴルフバックをちらっと見た。あのひと明日は新聞を見て朝一番にびっくりするぞ。
それにしても、人が多いもんだな。
こんな時間になっても、……ゲッあれはサユリだ。
ウキウキしてるな、また、惚れたのか? 今度は誰がお目当てだ?
なんど振られても、いい男だとすぐその気になって、……本当に学習しないヤツだ。
オレは違うぞ今日こそはケリをつけにいくんだ。
サユリは気持ちがどこかにすでに行ってしまってるようだ。ここは、なにも言わずにすれ違おうとしたとき
「栄太! アンタどこいくのよう」
ヤバイ絡まれたら動きが取れなくなる。担いだバックがガチャンと鳴って。オレは立ち止まった。
サツキが道をふさいでいるからしょうがない。
「こんな夜中にどこ行くの?」
「え、そんなのどこへ行こうといいだろう」
「あたし、忙しいんだからめんどう掛けないでよう」
「な、なんだよ、なに言ってんだよ」
「アンタ、もらす前の情けない顔してる。もう、十年はミテナカッタ顔だわよう」
「う、うるさいいそがしいんだろ! ささっと行けよ」
「フン。バカ」
そういうとサユリはぶつかってきた。慌ててオレはよける。
すれ違った。とたん、思いっきり背中をけられた。いてぇ!
オレは振り返らない。前に進む気持ちもくじけていた。
「続いて友人代表、洗井新之助さんにスピーチしてもらう予定でしたが突然盲腸炎で入院、急遽先輩の朝野さんが駆けつけてくださいました」
「どうもー。朝野です。名前だけでも覚えて帰ってくださいね。いやー今日は朝から変な日でね。特異日ってやつですかね。後輩の洗井がスピーチできなくなったという噂を小耳に挟み先輩として一肌脱ごうと思い立ち、今ここにいるわけなんですけどね」
「あの、洗井さんから頼まれたのではないのですか?」
「いやいや、いやいや。そこが特異日。だって午前中だけで三回もウンコが出たんですよ。それも下痢じゃなくて三回とも大層ご立派なしっかりしたやつが――」
「あの、おめでたい席なので下ネタはご遠慮願います」
「いや、ところが今日は下だけじゃなくて上のほう、ハナミズも出まくりだったんですよ。上から上水、下から下水、人間水道局か!」
「あの、ですからもっと普通の話を――」
「普通と言えば総武緩行線だね。おれ三鷹から千葉までの全駅構内の立食蕎麦屋を食べ歩いたんだけどさ。ていうかおれ立食蕎麦屋のオーソリティーとして斯界では有名で。今都内マップ作ってるんだけど。というのはチェーン店並みの安い値段ながらチェーン店よりうまいインディーズ系立食蕎麦屋探せば意外とあるんでその――」
「普通と言ってしまった私が悪うございました。でもいいですか、今、結婚式ですから。もっと夢のある話を」
「夢のある話と言えば宇宙旅行だね」
「そうでしょうか」
「無限の宇宙には無限の星があるんだよ」
「なるほど。ロマンティックですね」
「つまり無限の惑星があってだからどんな宇宙人も実在するんだ。たとえばハナミズ出まくり星のハナミズ出まくり星人は朝から晩までハナミズ垂らしてる」
「それはどういった……意味があるんでしょうか」
「それはね。ハナミズ出まくり星は妙に埃っぽいんだね。だからハナミズ出るほうが生存競争で優位なわけ。自然選択の結果ハナミズ出まくり星ではみんなハナミズ出まくりになった。ていうかハナミズ出れば出るほどかっこいい。地球で女が豊胸手術するのと同じさ。それでハナミズ星ではハナミズをできるだけ勢いよく出すために鼻の穴を大きくする整形手術が大流行でさ。ハナミズ星の美人コンテストではずらっと並んだ美女たちが一斉に鼻の穴をおっ広げてドバドバー――」
「はい、終了、終了ー!!」
「一方そのころ、ウンコ出まくり星のウンコ出まくり星人たちは――」
「じゃあオートバックスで待っとぅれらぁ!」
とまあ、正月のヒットでした。
ヤンキーVIPカー一年生はオートバックスという単語の入った文章を巻き舌で話すのでした。ガンバ!!
けみすとり〜 とか えぐざいる
なぜか、「ぷっ」とくる
とおもってたら
昔、中学生がケミカルウォッシュのGパン喜んで履いてた!
やっぱり!と気づいた俺は
ケミカル!!け〜みーか〜る〜!!!
はあハアわらいすぎた
で、ああ、中学生、化け学に弱い、、、
まただまされたんだ
エグい商売!
「おれらにケミカル起こりました。コラボろーションです」
、くっっ。コミカルですね。
闇ケミカルもコラボボも
すぱげってぃをパスタとか、スタバとかに弱いあほ女的なよこもじかたかなには弱い。
とは基本的にあほ中学生ツボ単語
で増殖エグゼスはなんたら娘。のエボVでRKB48手
ケミカルウォッシュを復活させよう会は大賛成。
あんな恥ずかしいのをカッコ良く穿きたい。
学ラン着たい。長ラン。
そしてチェリッシュとか
白いギターとか
野村義男とか
結局、エグなんたらが
ケミカルウォッシュで学ランきて
白いギターで
出てきたら
諸手をあげて大ファンになれるのに。
ローラースケートまで履いたら、
顔がプリントしてあるうちわ買って徹夜組になるよおれは!
ベイシティローラーズゲンジヒカル男塾シャネルズ
という抱き合わせ(ケミカル化学反応コラボ)はドラクエとクソゲーの抱き合わせ販売ぐらい楽しいイヒ
ああ、大人になるってこういうことね
あんだけクソゲー憎かったのに
クソゲーほど今となってはかわいい。
大人は金ある中学生やから。
オナニーとかもね。
おなじアホならみるあほう
おなじみるなら
阿呆になれ!!
とかな、猪木は
馬鹿になれ、だね
ばかになったのに、、
まあ、紙ひとえ。
あほとホントのあほは。
ホントのあほ道は利休も歩きたかった
は・ず・せ〜!
引き算の余裕なんです。
よってに ごます どすえ どぶどぶ
by ぱーぷるのケータイしょーせつ
ぱーぷる、て!エロいなばばあ!!
はい!
おそまつ!!
あ、 ネオたけのこ族なめんなよ ひ〜ば〜 ひ〜ば〜 ええぢゃないか!
「明日はきっと来ないよ」と呟く声がした。
最近は地球滅亡だとか感染病だとか自然災害だとか、そういったテーマの映画が多いと思う。3D技術とかCGとかそういった類のものは素晴らしい。水で肺が埋め尽くされそうな洪水とか、心臓が潰されそうな緊張感とか、映画の魅力は此処だよなと思ったりする。
日曜日の昼間のテレビでは丁度、先日公開された映画のCMが流れていた。
「映画見たいの?」
「そうじゃない」
「じゃあなに、もうそろそろ地球も世界の終末を迎えちゃう感じ?」
「そんなの誰にも分からないだろ」
じゃあ何で明日はきっと来ないの、と不意に漏れそうになった欠伸を噛み殺しながら聞く。すると、だだをこねる子供のような声が、私の座るテーブルの向こう側から返ってきた。
「毎日おんなじことの繰り返しで、明日は全然真新しくない。だから明日はきっと来ない、ってこと」
テレビ画面を見つめる彼の口の先は、不平を表すようにとんがっている。こんなところだけはいつもの無愛想な態度からは想像もつかないくらいに素直で、つい顔が緩んでしまいそうになる。それが見つかると更に機嫌を損ねてしまうので、いつも必死に噛み殺すのだけれど。
「あら、贅沢者ね。何をしなくても明日は来るって言うのに」
「別に非難されるようなことじゃ、ないだろ」
「つまらないのは君がそう決めつけているからじゃない」
贅沢だよと付け加えると、じゃあもういい加減カレーじゃないものが食べたい、と言って彼はカレーの入っていた容器にスプーンを放り投げた。からんと陶器の音がする。
何をどう間違えたのか、私が、二人暮らしであるというのに五リットルもの大鍋に作ったカレーは、既に三日を経過していた。
「あ、あとちょっとで終わるの! 頑張ってよ、ね」
私一人で食べきれる自信はないし、捨てるのは勿体ない。まさか此処まで掛かると思っていなかったのが大誤算と言うべきか、私も彼もこの三日間、朝昼晩ほぼずっとカレーが主食だったのだ。もちろんお弁当も例外ではない。だが四日を越えてしまうと、さすがにまろやかという表現をするのも苦しいというもので、どうしても彼の協力を仰ぐ必要があった。誰だって三日間も頑張り続けたら最後まで完遂したいと思うに違いない。そんな強迫観念のようなものを思い込んだ私は、ぶすくれた彼の機嫌を取るように慌てて甘えを含ませた声でそう言った。
「贅沢してえな」
勝ち誇ったように呟く声がした。
思い出すのは桜餅。松尾は寝床に飛び込み<うっとり>の最新号を開いては、ライター久保内象の紹介する浅草PinKの桜餅を眺めていた。
五年前、働いている風船工場の社員旅行で初めて東京へ行った。浅草猿若町での芝居見物である。神田川を柳橋経由で隅田川にでるプランであった。
「浅草旅行なんて古いよ、まったく主張できない労働者はツライよ」
「きっと幹事は困った慌てものなのさ」
「東京といえば浅草なんて」
勤め人一同、舟の宴会席でもグニュグニュ言っていたが、案内嬢のつけている香水から東京の匂いがしたことと、酒に皆酔いはじめて、松尾も隣から「鰹のたたきを半分もらってくよ!」と突っつかれたり、無礼講になっていった舟内では、部長が服を脱ぎはじめ、
「セクハラ!」
とかけごえが飛び出す始末。
「ぼくちん知らない、ぼくちん知らない」と甘えてみせる部長の姿に全員失笑したのだった。
芝居小屋に到着すると、切符のかわりに購入したお面をかぶる仕組みで、松尾は鼠を選び、席は自由だったので誰が社員なのかわからなくなった。鼠の松尾の隣にはウサギの女が座って、案内嬢よりも上品な匂いがした。
チェコの前衛芝居らしかったが、松尾は芝居も初めてみる。内容はつかめなかったが、小道具の風船が松尾の作っているRe:D型の風船だったので、それが誇らしく、どうしても我慢できず、休憩に入ると、ウサギの女に
「アレ俺つくってる風船」と囁いた。「そう。そうなの」と彼女はたいして興味なく返事をして立ち上がり、まもなく戻ってくると松尾に和菓子をくれた。
「これよかったら。花が冷えてておいしいよ」
桜餅だった。
「じゃ俺も風船やるよ。Re:Dってゆうんだ」
松尾は膨らんでないゴム風船を渡した。女と松尾のやりとりはそれっきりで、芝居が終ると仮面を脱いで浅草から銀座まで歩いた。自由行動になって、松尾は西沢書庫という洋書屋に、常連のような顔つきで入っていったが洋書屋に入るも初めてだった。そこで慣れてるようにダフニスとクロエの絵葉書と、唯一置いてあった「うっとり」創刊号を買って自分への東京みやげとしたのである。
毎月15日になると、定期購読している「うっとり」が松尾の部屋へ届く。風船工場でクタクタになるまで働いている松尾は帰宅と同時に寝床へ飛び込むのだが、今日届いた最新号を開くと、あの桜餅が紹介されていて、つかの間、松尾の部屋に東京の匂いが流れたのであった。
出稼ぎ同然に家を出た社会人一年目の私。起き抜けにヨーグルトを食べてすぐに猛烈な腹痛と便意をもよおし、そのままトイレで上から下からげえげえと吐き続けること一時間、熱っぽく朦朧とした意識の中、この原因はヨーグルトにあると直感し、冷蔵庫に偉そうに鎮座せしめるヨーグルトを三角コーナーにぶちまけるため手に取って、そこにおじさんをみた。
「なにか」
おじさんは顔を覆うような白い顎鬚を蓄え、赤いエスキモー服を着ていて、眉間の深い皺と硬そうなもみあげが少し怖い。この派手なおじさんが容器の中で胡坐をかき、甘納豆を長い箸でつまんでいた。私の腹痛はこのおじさんに因るものに違いない。
「ヨーグルト食べたらお腹こわしたんですけど」
そう声をかけた拍子におじさんの箸から甘納豆がぽろりと落ちた。
「……この甘納豆、生きちょる」
そうして何事もなかったかのように拾い上げて口に含んだ。
「あの、」もぐもぐしてんじゃねえよ。
声をかけるとおじさんはまた豆を落とし「生きちょる! 生きちょる!」と狂喜した。
私は扉を閉めた。そして布団で丸まって眠った。
明くる日。何ひとつ解決していない事実に思い至り、意を決して再び冷蔵庫に向かった。
中には、
「なんだいアンタ」
牛柄のマントを纏った細身のお姉さんは長く伸びた前髪をかきあげ、口元のキセルをぷかりとくゆらせている。
「おじさんを知りませんか」
「モリナガさんならその辺にいるんじゃない、知らないけど」
お姉さんはひき肉にどっかりと腰を下ろし、挑発的に足を組んだ。豊満な胸元、深いスリットの入った振袖から覗く白い足が眩しく、私は思わず目を背ける。その視界の片隅でぐらぐらと卵は揺れ出し、ぱかりと割れて幼女が生まれた。羽の生えたランドセルをしょっている。幼女は、肌も露な水着に身を包み、丸い身体をいっぱいに反らしてうーんと伸びをした。膨らんだ腹と平らな胸とが作用し合ってお互いを強調する。はちきれんばかりのゼッケン、「3―2 ひかり」。
「お姉ちゃん、誰このひと」ぱたぱた。
「さあね」ぷかー。
幼女は羽を揺らして空を舞う。いなせなお姉さんは輪っかを吐くのに余念がない。私は扉を閉めた。
ヨーグルトとひき肉と卵を日にひとつずつ買うことを、私は決めた。新鮮な物は奥にしまい、古いものから食べる。
大丈夫、今日もきっといる、そんなおまじないを冷蔵庫の扉にかける午後十一時。賑やかな夜がはじまる。
翔太が初めて家出をしたのは中学に入る少し前だった。
家族に不満があったからではない。ある晩漠然と死について思いを巡らせていたら眠れなくなった。それが理由だ。
四時過ぎに翔太は布団から出て、へそくりをかき集めた。小銭で三千円あった。着替えると家を抜け出し、駅に向かった。券売機に五百円入れ、表示された一番高い切符を買った。駅員は堅物を絵に描いたような顔をしていたが、意外と物わかりがよかった。なにやら思い詰めた顔の珍客に、あと二十分で始発が来ると教えてくれた。
誰もいないホームを歩き回っていると、屋根が途切れた暗いホームの端に何か落ちていた。どこから落ちたのか、雀か何かのヒナが力なく動いていた。翔太はどうにかしてやりたいと思ったが、素直な感想も禁じ得なかった。毛のない肌と異様に大きな頭に開かない目、有り体に言えば、気味が悪かった。遠巻きに見守っていると、突然ベルが鳴ってあたりが眩しく照らされた。ライトに晒されたヒナの、嘴の鮮やかな黄色が翔太の頭いっぱいに広がった。
急いで電車に乗り、外を眺めた。まだ暗いが目を凝らした。何も考えたくなかったのだ。だがあれだけ眠れなかったのに、座るとあっさり落ちた。
目が覚めるともう昼近かった。電車は止まっていて、車掌が翔太の肩を揺すっていた。寝惚け眼で思い出したのは、家出をしたということだった。翔太は車掌を押しのけてホームに降り、無我夢中で端まで走った。足下に何かを探したが寝起きでまだ思い出せなかった。車掌は追ってこなかった。空は抜けるように青く、微かに磯の香りがした。乗ってきた電車が翔太の住む町に向けて走り出した。
ホームの売店でお茶と弁当を買うと次の下り電車に乗った。切符を検められたが、終点まで眠っていたと告げると納得してくれた。顎に涎がこびりついていたからだ。
空が茜色に染まる頃、翔太は朝と同じホームに降り立った。駆け寄るとヒナは半ば干からびていた。涙が出た。だが気味が悪かった。朝よりもっと気味が悪かった。
涙が止まるまで待ってから改札に向かった。朝と同じ駅員はやはり物わかりが良く、ハンカチで乾いた涙と涎を拭いてくれた。翔太は駅員を連れてホームの端に向かった。駅員は同じハンカチでヒナの亡骸を包み、翔太と一緒に駅舎の裏に墓を作った。
うなだれて帰宅すると、予想に反して家族も物わかりがよかった。夕食は父がフライドチキンを買ってきていた。
ある日、ふと天井を見上げますと、一本の糸が降りてまいりました。
私がそれに手を触れましたら、しゅるしゅるしゅると次から次へと糸が天井から出てくるのでした。
「おや……穴だ」私の言葉通り、天井には小さな穴が開いており私はすぐさま、こりゃ天井の糸だと思ったのです。
普段ならそんな気違いめいたことは思いませんが、なんだか頭の中で調度よくはまる答えがこれしか浮かばないのです。それには39度の熱が少なからず関係しているのだろうとは思いますが。
さて、どうしたものかと天井と糸を交互に見ていたのですが、糸を持っているとどうしてか引きたくなる性分なもので、欲に負けするりするりと引っ張っていきました。
想像の通り、穴は大きく成長をしていきました。
すっかり解いてしまうと青空が広がっていて、それはそれは綺麗で見とれていました。
なんていったって、熱が出てからもう3日も空を見ていなかったもんですから。
しばらくは空を楽しんだのですが、少々寒くなってまいりました。
「お前、天井に戻りたいとは思わないか」と糸の先端に話しかけますと、私の手からするすると空に向かって行きました。
「天井になってくれるのかい」と喜んでいますと、家なんざ飛び越えて、天高く上ってしまいました。「あぁ……天井」時すでに遅く上げた手は静かに下ろすはめとなり、首のみ上に向けてみると空は灰色になっていた。
「曇天」
こうして今日新たに晴れ・雨・雪に加え、曇天が追加された。
え?嘘付きって?知ってるわよ、私が付いた嘘なんだから、ただ曇天が好きなだけよ、だけ。
雪の結晶みたいな形だった。手に取ると空気みたいに重さを感じないのに、強く握るとそれは岩のように硬い。眺めるのにも飽きて軽く空に放り投げたら、それは風に乗ってふわふわ飛んだ。なんだか面白いので、僕はそれをたくさん拾って、たくさん空に投げた。
「まるで生きてるみたいね」と彼女は、空に舞う物体を眺めながら言った。「でも、いつか力を失って落ちる。すべてのものがそうなの」
君はきっと神様を信じないタイプだなと僕が言うと、彼女は何かを思い出したように微笑した。
「そうでもないわ。きっとわたし弱い人間よ」
空に投げた物体は、風の力を受け少しずつ空を昇って行った。それに形も雪の結晶みたいなものから、だんだん細長くて、だらしない棒のようなものへと変化していくのだった。まるで捨てられたゴムひもみたいな、あるいは、どうにもやるせない日曜の午後みたいな。
「今日は特別に退屈ね」
彼女は上着のポケットに両手をつっこむと軽くうつむいてみせた。
「キスして」
僕は雪の結晶を空へ放り続けた。そこら中にいくらでも転がっているのだ。
「ねえ、キスして」
君も投げてごらんよと、僕はそっぽを向いて言った。
「下らないわ……そんなもの」
僕は大袈裟に溜め息をつきながら彼女を抱き寄せると、死んだ魚の腹みたいな彼女の白いひたいに、長い長いキスをした……。
「ほんとはね」
あるとき彼女と、こんな話をしたっけ。
「死にたいと思ってたの」
僕は隣で、彼女の髪に顔をうずめていた。
「ねえ、どんな匂いがする?」
「君の匂いがする。まるで君に抱き締められてるような感じさ」
「わたし生まれる前から、ずっとあなたのこと抱き締めていた気がするの。それ知ってた?」
「知らなかったよ」
「馬鹿ね」
僕はふと思い出した。
「ずっと昔、悲しくて一緒に泣いたことがあったよね」
「ええ」
「あのとき、何がそんなに悲しかったんだろう?」
長いキスをやめ頭をあげると、高い空の上に巨大な模様が浮かんでいた。一つ一つの物体が鎖のように繋がりあって、地上を覆う重力の支配に戦いを挑んでいる。
「あのとき、悲しいことなんて何もなかったわ」と彼女は横顔で言った。「ほんとは何も、恐れるものなんてなかったのよ」
でも恐いんだ。
「息をするたび、大切なものを一つ一つ奪われてる」
彼女は雪の結晶を一つ拾い上げると、ひどく不器用な動作で空へ放り投げた。
「わたし、赤ちゃんができたの」
休日の学校で待ち合わせ。卒業式はとっくに済んで、もう着なくなっていたブレザーとスカートを身に着けて。待ち合わせ相手はこの学校に入学してくる子だ。
三つ下の幼馴染。といってもここ数年は会うこともなかった。一昨日、家の近くでセーラー服姿の彼女と偶然会って、春から私の通っていた高校に通うことを知らされた。はしゃいだ様子の彼女に気圧されて、軽くときめいて、特に考えもなく待ち合わせの約束をした。
「じゃあ、学校の中とか案内してくれませんか」
学校なんてどこもあまり変わらないと思う。それでも約束は約束なので、私は今校舎の二階廊下から正門を見下ろしている。
私が先にきて、彼女が後にくる。そう提案したのは彼女だった。駅前などで待ち合わせしてもよかったのだけれど、彼女はまず一人で学校までの道筋を辿りたかったらしい。
休日なのでほとんど人がいない。校庭でサッカー部が練習試合をやっていて、その声や音が微かに聞こえてくる。
手を組んで前に出し、軽く伸びをした。何だか緊張する。休日の学校。制服での待ち合わせ。何年も会っていなかった幼馴染。先輩と後輩。ここを卒業した者とここに入学する者。そんないつもと違ういろいろのせいで、いつもより心臓が高鳴っていた。
女の子が正門を通って歩いてくる。ここの学校の制服を着ていたから、最初それが彼女だと気づかなかった。ブレザーとスカート。目を凝らすと真新しいのがわかる。まだ着慣れていない感じが可愛かった。
たぶん彼女は私を驚かせたかったんだろう。駅ではなく学校で自分の制服姿を見せたかったんだろう。校舎の二階の窓を順に眺めて、私を見つけると嬉しそうに手を振った。そうしてすぐに校舎のほうに駆けてくる。
私は窓に背を向けて、両肘を窓枠に置き、ゆっくりと首を動かして廊下を見渡した。右から左へ。どこの学校でも変わらなさそうな廊下。階段を上ってくる彼女の足音。私はそれに紛れるぐらいの小声で言う。この学校に言う。
「あの子、私の幼馴染だからよろしくね」
もちろん学校が「わかった」なんて返事するはずもなく。
「お待たせです、先輩」
階段口から現れた彼女は眩しいぐらいの笑顔だった。真新しい上靴も眩しい。
「ねえ」
「はい」
「わかった、って言ってみて」
「え?」
「いいから」
彼女は不思議そうにしながらも言われるままに、
「わかった。……で、いいですか?」
「うん、よろしい」
じゃあ、よろしくね。
今夜は32年ぶりのビッグイベントの日。僕は彼女との待ち合わせ場所である高層ビルの屋上に急いでいた。ここに来るまでに会った人々は、一心不乱に祈り続けているか、狂ったかのように暴れている人ばかりで本当に嫌だった。だから屋上について彼女の笑顔を見つけたとき、心から暖かい気持ちになれた。
屋上の床に断熱シートを敷いて、二人で並んで座る。
「そろそろ時間、ちょうどあの方向、アルタイルから来るんだよ」
そう言って僕は一つの星を指差す。そのまま二人並んで同じ方向を見つめながら会話をする。
「君のご両親は大丈夫だった?」
「ううん。お父さんは泥酔して寝込んでる。お母さんは平気そうな顔で家事やってるけど、普段やらない細かい掃除ばっかりするのがおかしかったよ」
「そうか。でも32年前はほとんどの人がおかしかったけど、今はそれほどでもないから、32年後にはきっとみんな、落ち着いてショーを楽しめるだろう」
「気の長い話」
彼女の笑い声が響いたそのとき、夜空に光の扇が現れた。
ちょうどさっき指したアルタイルの一点から、地平線にまで伸びる細い光の扇。僕らは驚きに息を呑む。
その光は、アルタイルから地球へ放たれているレーザーだった。惑星一つ滅ぼせる出力のレーザーが、太陽系のごく薄いガスまで発光させ、光の帯を作っている。
予想していた線とは違う光景に僕らは言葉もない。地球から近いところを掠めたせいで、扇のように広がって見えたのだ。あと数十万キロずれたら、地球に当たっていたかもしれない。
アルタイルと地球は、百年以上前から戦争をしている。人類史上初の恒星間戦争は、互いの惑星めがけて高出力レーザーを撃ち合うという、実に退屈なものだった。なにしろ17光年も離れているから、ワープでも発明されない限りレーザーがもっとも早い攻撃手段なのだ。
そしてこれだけ離れていれば、どんな精密測定をしてもなかなか当たらない。一発撃ってから誤差を観測し、それを修正してから再度撃つ。その繰り返しだ。しかも撃ったのが届くまで17年かかり、その結果を観測するのにさらに17年。32年に1発しか撃てないのだ。
やがて光の扇が消えた。僕らは二人揃って残念そうな溜息を漏らす。
だが次の瞬間、街の各地ですさまじい歓声と祝いの音が響き始めた。
「楽しむのが遅いんだよ」
僕が不満げにそう漏らすと、「次はきっとみんなで楽しめるよ」と彼女がなぐさめてくれた。