第90期 #9
結局上層部の意見は通ってしまい、戦線に『竜』が投入されることとなった。
それからの展開は早かった。
『竜』はかつて最強と言われた『猛禽』の名を冠する兵器を大隊分単独で相手にしても勝つ化け物。それが千にもなれば普通にやってる内は勝てるはずがない。
『竜』が来て次に空を飛ぶのは『竜殺し』だ。かつての核なんかと一緒にしちゃいけない。星に消えぬ傷を残す最悪の兵器だ。
ちくしょう、ここまで予想通りなのか。俺達が国境を失くしていくにつれて世界を滅ぼすための時間が短くなる。竜と竜殺しが空で弾けて混ざる。
「お前さんはどうしたいんだ」
レフターが俺に尋ねる。竜のくせに熱心に人語を勉強し話せるようになった希少種だ。
そして、俺の唯一の親友。
「わからん。もう俺一人が責任を負うレベルじゃない」
「でもお前さんは責任を感じている」
「……言うなよ」
あの時俺が竜の遺産をサルベージしなければこんなことにはならなかったのか?
そうじゃないだろう。そうじゃない。
俺は何で竜に平和を求めたんだ。『竜が何故この星で眠りについたのか』その理由を何故考えなかったのか。
駄目だ、どこまで言っても責任は俺にしかない。ような気がする。いやそうなんだ。俺だ。もう後戻りできない。
決意を固めたのはレフター以外の全てを失った瞬間だった。
「レフター、一緒に飛んでくれ」
「もうこの星は死ぬのにか?」
「一人でも多くの人間を星と共に逝かせたい」
「自己満足だな」
「構わない」
「そもそも我々だけで倒せると?」
「そのためのお前だ」
「……よかろう」
レフターは結局笑顔を習得できなかった。当たり前だ、骨格が違う。
でもレフターは笑顔を練習した。
「人間は感情が表せていいな」
それからあいつの練習は始まったんだ。
俺には今、レフターが笑ったように見えた。
人も竜もじじいになるとひょうきんになるようだ。
黒い空から竜と機械の残骸が落ちてくる。
紅と黒の雨が交互に降る。
稲光が絶え間なく響く。
どす黒い海が荒れ狂っている。
昔はこれが蒼かったって?
冗談だろ。
俺達は翼を広げている。
本当はもっと、素晴らしい世界を夢見たのにな。
はるか向こうで竜と兵器が殺し合いをしている。
俺はその両方を殺す。
ヒーローに憧れた俺が人類に引導を渡すなんてな。
「だが格好いいじゃないか」
レフターがまた笑ったように見えた。
こいつと出会えたのだけが、俺の救いだ。