第90期 #10
私は小さい頃に捨てられた。
だから、親も知らないし、自分の名前もわからない。
私は、ひとりだった。
毎日一人、町をさまよい歩く。
私をかわいそうに思ったのか、たまに食べ物を分けてくれる人やお風呂に入らせてくれる人はいたけど、私を引き取ってくれる人はいなかった。
(このまま孤独に死ぬのかな・・・)
ときどきそう思いはしたが、でもつらくはなかった。
数日後、いよいよ助けてくれる人もいなくなり、私の体力も限界が近づいてきた。
(もう、だめだ・・・)
私は、そこで意識が途切れた。
次に目がさめたとき、私はなぜか暖かい家の中にいた。
「いったい・・・誰が・・・」
「おや、目がさめましたか」
後ろから、男の人の声がした。
「あなたは?」
「私は隆と申します」
「隆さ・・・」
バタン!
「!!大丈夫ですか!?えっと・・・」
「雛・・・」
「雛さん!しっかりしてください!雛さん!」
「ありがとう。孤独な私を助けてくれて・・・」
「雛さん!死ぬな!死んじゃだめだ!」
「ありが・・・と」
時が、止まった。
私が最期に味わった、人の温もりは、優しく、暖かかった。