第90期 #2

とある学者の奇妙な冒険

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 イタリア史上最悪の水害が始まる前、とある学者が雷に打たれて死亡した。
 大水害後、彼の腐乱死体がフィレンツェで見つかる。
 それから遙か後のこと――。


  *


【『とある詐欺師の魔法の杖』おまけミニショートショートその1】

『期限切れの言葉』

 円形の小さな窓の外では、赤砂の景観がどこまでも広がっていた。
 砂面には曲線的な凹凸はあっても、足跡などはまるでない。
 小窓の内側にあるのは、居住空間。白を基調とした極めて簡素な部屋。

「愛してる」

 部屋に備え付けの小綺麗なベッドの上で、男が隣に座っている女の耳元に甘く囁いた。
 そうして男は女の腰に腕を回したまま、彼女の返答を待っている。
 男のとろけるような言葉を受けて、女はピクリと反応した。ほんのり潤んだ綺麗な唇が静かに動き出す。

『期限切レデス。期限ヲ更新スル場合ハ、スロット二、カードヲ挿入シテ下サイ』

 男は落胆の表情を浮かべる。だが気を取り直すと、すぐに懐から有効残高のあるカードを取り出した。
 そして女から言われた通りに、慣れた手つきで彼女のスロットにカードを挿入する。

「愛してるよ」

 男は、再び甘く囁いた。前回よりも想いを込めて。

「――私も愛してるわ」

 女も満面の笑顔で百万年続く愛の言葉を返す。
 男は満足げに優しく女を抱きしめると、いつも通りの熱く激しい口づけを交わした。互いの四肢を絡ませ、ベッドが軋む。
 そうして、火星収容所の夜は今日もまたゆっくりと更けていった。


  *


 とある学者が、イタリアのフィレンツェで立派な死体となり、腐乱し始めていた。
 そして体内で蛆虫も涌き出していた頃のこと。
 摩訶不思議、オタク大国日本では――。


  *


【『とある詐欺師の魔法の杖』おまけミニショートショートその2】


『インコ』

「オハヨウ、オハヨウ」

 インコの声がして、俺は目を覚ました。
 俺はベッドから起き上がり、毎朝起こしてくれる律儀なインコに優しく声をかけた。

「おはよう」

 朝の挨拶を済ませて、いつも通りインコの籠の戸を開けてやる。

「オハヨウ、アイシテル。キョウノアサ、ツクル」

 インコはそう言って籠から這い出ると、エプロンを着て台所に向かった。朝食の準備を始めている。
 俺は、いそいそと朝食を作るインコの後ろ姿を見て、つくづく思った。

「インコの裸エプロンぱねー」


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