第9期 #7

いっそセレナーデ

愛しのセレナーデ。行かないで。行かないでくれ。甘いくちづけは遠い記憶の海にながされていた。
ダンディズムのチャンピオン吉田昇は春の陽だまりでまどろむ部屋でパイプをくわえた。
春の日差しを浴びた昇の体はからは漬物の匂いが漂っていた。きっとキュウリか茄子が食べごろに違いない。
吉田昇のダンディズムはその後猪木イズムとして継承され現在では酸化マグネシウムとしてしっかりと酸素と結びついた。
ダンディーは自然が大好きなのだ。
「夢か・・」
昇はまた同じ夢を見ていた。愛しのセレナーデ。昇は高まる気持ちを慰めるようにパイプを吹かしおならをすかした。
コンソメパンチの強烈なリバーブローは食事の準備をしている執事の武田を襲い悶絶させた。キレは増すばかりだ。
ダンディーは決しておならの音を立てない。朝、ムスコも立てない。
朝にいきりたっている海綿体はダンディーではない。どんなに叫んでもそこからは愛は生まれない。
出てるくるのは昨日涙だけだ。男はそんなに涙を見せるものじゃない。昇のダンディズムである。
武田はアールグレイを昇にもってきた。
「ご主人様。また同じ夢を?」
「ああ。最近じゃ夢か現実か分からない。」
明らかに困憊している昇を武田はほっとけなかった。武田はおもむろに服を脱ぎはじめた。
ダンディー昇は動揺せずにアールグレイを口にした。
「なんのマネだ?」
武田は昇の手をそっと握った。
「あなたのお子様はもはやこの世にいません。もういないのです。死んだのはご主人様のせいではございません。
運命だったのです。誰も想像できませんよ。生まれて三日で歩き出すなんて・・」
昇も分かっいた。あの交通事故は誰のせいでもない。ずっと分かっていた。けれども心の何処かで許されることじゃないと思っていた。
わが子を殺した自分は生きる価値がないと自分を戒めて生きてきた。
「ご主人様。私は先日還暦を迎えました。そうです。私は生まれ変わったのです。一人の赤ん坊です。」
昇はゆっくりと頷き、裸の武田を抱っこしおっぱいをあげた。シワシワの赤ちゃんだが力を入れると壊れてしまうところは赤ん坊そのままであった。
おしめはオプションだったことは昇には関係なかった。ダンディーは常にフルオプションである。



Copyright © 2003 フェラッチオセンズリーニ / 編集: 短編