第9期 #28

緋い記憶

 また燃えてる。家が燃えてる。あれはなんだろう? 双子みたいに寄り添ってる、あの黒い塊はなんだろう? 近寄って覗いてみる。人だ。伯父さんと伯母さんだ。僕を大切に育ててくれた、伯父さんと伯母さんだ。
 でも、どうして? この家に火をつけたのは僕。この家が燃え尽きてしまえと願ったのは僕。焼け爛れた家の前、一人泣いてるのは僕。どうして? どうして? 

 ……いつもここで目が覚める。目を覚ましてしまう。あの後、僕はどうなるんだろう? 分からない。僕には想像もつかないんだ。だって、僕は伯父さんと伯母さんが大好きなんだもの。パパとママとは大違いだ。伯父さんと伯母さんはとても優しい。僕をぶったりしない。僕をストーブに押しつけたりしない。僕を柱に縛り付けたりなんか絶対にしない。
 パパとママなんか大嫌いだ。僕を苛めるだけ苛めて、僕一人残して死んじゃったんだ。僕はパパとママなんか全然好きじゃなかったんだ。だからちっとも悲しくなんかないんだ。いい気味だよ。僕は優しい伯父さんと伯母さんに引き取られたんだ。僕にはもうパパとママなんか必要ないんだ。
 
 ――でもどうして? どうして僕は夢を見るの? この家と伯父さんと伯母さんが真っ黒な灰になる夢を。いったい誰が望んだの? こんな夢、誰が望んだの?
 
 コンコン
 
 あ、伯父さんと伯母さんだ。待って、いまドアを開けるから。ああ、やっぱりそうだ。おはよう、大好きな伯父さんと伯母さん。
 
 なんて優しい瞳なんだろう。冷たく光ってる。
 なんて優しい顔なんだろう。薄ら笑いを浮かべてる。
 なんて優しい手なんだろう。僕を何度もぶったりストーブに押しつけたり柱に縛り付けたりした手。

 あ、やめてよ!? 僕をぶたないで!! どうして!? どうして僕をぶったりするの!? どうしてそんな嬉しそうな顔をするの!? あんなに優しかったじゃないか!! ねえ、やめてよ!! ねえ――

 
 僕はまた夢を見た。燃えてる。家が燃えてる。あれはなんだろう? 双子みたいに寄り添ってる、あの黒い塊はなんだろう? あれはなに? ねえ、教えてよ。誰か僕に教えてよ。優しい伯父さんと伯母さんはどこに行ったの? どうして今日は夢が覚めないの? 焼け爛れた家の前、どうして僕は泣いてるの? 教えてよ。お願いだから、教えてよ―――僕の優しいパパとママ。



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