第9期 #22
・返信拒否には理由がある/のの字の字
掲示板での騒動の割に、まとまった話を書く人だなという印象。タイトル「返信拒否」で、掲示板での不穏な雰囲気を漂わせながら、実は中身は「携帯電話にまつわる人間ドラマ」という大人しい内容で、ところがそれが実は囚人同士の話である、という二転三転の展開をした挙句、読み終わってみれば不思議な統一感がある。ついでに掲示板での「あの人」を囚人役に仕立て上げ、最後は殺してしまうという地味な復讐とかやっている所も面白かった。
・桃源郷の女/朝野十字
ある女性の切ない物語を連想させるタイトルに反し、徹底的に暴れまくる主人公のギャップが面白い。差別制度と言えばインドとか日本とか、まあどこの国の歴史にも色々とあるのだろうけど、とにかくそういった「被差別的な立場」における辛さ暗さのようなものが、彼女には全く感じられず爽快だった。彼女が足を踏み入れた国々がことごとく滅亡してしまう辺りなど、「都合が良すぎないか」と思わせる反面、すんなり納得させられるパワーが文章にあった。
・ただいまゲルマン移動中/妄言王
タイトルはパクリである。しかしなかなか面白い。ゲルマン系人が怒り狂って卍を復活させそうなほど面白い。まさかゲルマン系人が「短編」など読んでいないだろう、と好き勝手に書いている節があるしゲルマン人を冒涜しすぎかとは思うが、やっぱり面白い。でもタイトルはパクリだったりする。
・ソーリー、ソーリー/野郎海松
身体中がむずむず痒くなりながら読み進めていたら、ラストで思わず後ろを振り返ってしまい、ちょっと背筋が寒くなった。書き手として意表の突き方を熟知している感じがする。話の内容がタイトルにどう結びついているのか初読では僕は分からなかったのだけど、読み直してみて、なるほど「例の事件の関係者の謝罪」につながっているのか、と。全体的に組み立てが上手いなあという印象。
・カズヤの真相/紺詠志
これも背筋が寒くなるラストだった。相手を倒産に追い込むと同時に自分も利益を吸い上げる「倒産屋」と違い、相手はただ主人公カズヤを破滅させる為にだけ行動している節があり、これは商売の意図が無い(=自分の快楽を追求)と思いきや、ちゃっかりラストでカズヤの「残りカス」を絞る様な形で利益を得てしまっている。本当に商売として成立してしまいそうな所が恐い。