第9期 #14

まだらの芋をめぐる冒険

 一年前大富豪かつ冒険家だった男が妻と共に事故死した。残された双子の姉妹は絶世の美女だった。ある日姉が名探偵・朝野十字を訪ねた。
 姉妹は宮城県出身だが今は東京の一軒家に家政婦も置かず二人で暮らしている。姉妹の寝室は一階の隣同士である。妹の部屋には冒険家だった父のプレゼントである南米の芋の置物があった。竜神ライグウの好物でまだら模様のある伝説上の芋である。二週間前妹の恋人・誠が結婚を迫ったが妹は断った。誠は顔面蒼白で帰った。数日後、妹の部屋から念仏のような音、強いお香の匂いがするようになった。ある夜姉が目を覚ますと隣で「ライグウ!」と叫ぶ声がした。妹の部屋のドアを叩くと、しばらくして放心状態の妹が現ればったり気絶した、と言う。
 名探偵は直ちに姉妹の自宅を訪れた。姉妹の寝室のドアは同じ廊下側に開き、窓は庭に面してあった。名探偵は姉妹の部屋の窓の周辺を丹念に調べた。壁には蔦が絡み鎧戸を閉めた窓を外から開けることは不可能だった。廊下側のドアは姉の勧めで就寝前に内側から錠を下ろしていた。妹はライグウや念仏に心当たりはないと言った。また結婚を断った理由は、両親を失って日が浅く恋人より姉を大事にしたい、結婚して家を出る気になれないと述べた。なお、姉にも恋人がいると聞いて名探偵は悔しそうに唸った。名探偵は姉の恋人・隆を厳しく訊問した。隆は一月前に喧嘩して以来姉に会ってないと答えた。
 ある日私(助手の新之助)は急用の名探偵に代わり姉を訪ね、内緒で妹の部屋に盗聴器を仕掛け窓の鍵を壊しておけという指令を伝えた。姉は今夜自分の部屋で用心のため恋人と共に盗聴すると言った。仲直りしたのかと尋ねると「私には唯ひとりの家族が第一、隆さんは二の次なのです」と答えた。名探偵には危険だやめろと命じられたが、その夜私は独断で姉妹の家を見張っていた。庭の植込みが揺れたので飛び出すと、同時に飛び出てきた名探偵とぶつかった。名探偵は黒装束でカメラを抱えていた。
「その格好は――」
「黙れ字数がない回答は姉妹が共に相手を思いやり恋人を遠ざけたが誠は深夜窓から妹の部屋に忍び込み(蔦に踏まれ切れた跡あり)愛を確認恋人と喧嘩した姉に気兼ねし愛の営みを悟られまいとステレオを低く鳴らしたのが念仏に聞こえ男の匂いを消すため香を炊いた宮城県出身の妹は『おら、いぐう!』と叫んだ」
 妹を盗聴した姉はその夜の内に恋人と仲直りしたと言う。


Copyright © 2003 朝野十字 / 編集: 短編