第9期 #13
リリカは、最後にできた友達だ。
ずっと病院で暮らしていた。ある日、病気が直っていないのに家に帰れることになった。家族は気を遣って、いとこを家に呼んだり、ほしい物を買ってくれた。僕も気を遣ってはしゃいだ。そうやって、過ごしていた。
ぼんやりと二階の窓から外を見ていると、女の子が顔を上げて走っていた。目が合い、女の子は立ち止まり照れくさそうに笑った。不思議に思った僕は窓を開けた。
「何でこっちを見ながら走っているの?」
「花がどこまで飛んでいくのかと思って、追いかけてたの。見失っちゃった。」
それがリリカだった。
僕の家は桜の風下のようで、次の日もリリカは来た。リリカは僕より三歳年下だった。そのうちリリカを庭に招いておしゃべりをするようになった。僕はリリカに病気のことを話した。
「あたしがあと、三年早く生まれればもっと早く友達になったのにね。」
リリカは年の差を残念がった。僕はずっと学校には行ってないから、あまり変わらないだろう。
「そうしたら、僕たちは会わなかったかもよ。」
僕の言葉にリリカは、ぱちぱちと瞬きをしてから、自身たっぷりの笑顔でこう言った。
「ううん。絶対に会って友達になるの。」
僕は目をそらした。うれしかったから。リリカと目が合うのが恥ずかしくて。僕はいつも誰かに、神様みたいな誰かに、もてあまされているような気がしていた。「とりあえず、ここに立っていなさい。」と、言われ、黙って立っている。みんなはどんどん通り過ぎていく。
「もう少し、君と一緒にいたかった。」
リリカのように笑ってみたものの、目の奥が痛んだ。声も上擦ってしまった。カッコ悪い。涙を拭いた。ますますカッコ悪い。胸も痛み出した。僕はさいこうにカッコ悪い。
「できるだけいてあげる。」
リリカは僕の死を否定しない。
桜の花びらが降ってきた。最後の花かもしれない。手のひらで受け止めようとしたけど、吹き流されてどこかへ行ってしまった。
「あのね、あたしが大人になったら、あなたのお母さんになってあなたを産むから。だから、また会えるよ。」
リリカはにこにこして言った。
「そんな――」
無理だよ、と言おうとしたけど、なぜ無理なのか言えずに困っていたら、にこにこ笑いながらリリカは僕の頭をなでた。
「ほら。」
リリカの手にあったのは、さっきの花びらだった。
無理だよ。僕は君が好きなんだ。
口下手の僕は、いつも後から言葉が浮かぶ。