第89期 #5
俺はマフィアだ。
名は持たず、ただ、コードネーム''X(イクス)''と呼ばれている。
俺は、立場上、誰にも愛されず、誰も愛さずに生きてきた。
幼い頃からマフィアとして育てられ、俺が13歳になったころ、''鮫''というマフィアグループに入れられた。
そこで出会った、一人の少女、''裏闇(りあん)''。
この少女は、ほかの奴等とは少し違っていた。
たいていの奴は、まず喧嘩を仕掛けてくる。
まぁ、すべて俺が片付けたが。
ただ、裏闇が発した俺に対する第一声は、
『あなた、綺麗ね♪』
だった。
初めは少し驚いた。
が、不思議と馴染みやすい雰囲気の子だった。
俺と裏闇はすぐに打ち解け、お互いに無くてはならない存在だった。
だが、そんなある日のこと。
俺は裏闇に呼び出され、こう告げられた。
「私、あなたの事、嫌いじゃないわ。でも、邪魔なの」
裏闇は、言葉が終わると同時に、俺の喉元にナイフを突きつけた。
そして、
「さよなら」
俺の意識は、そこで途切れた。
薄れゆく意識の中、俺が最後に見たのは、裏闇の、邪悪な笑みだった。