第89期 #3

白いカラスの話

 昔、私が作家を目指していることをどこからか聞いてきた友人が、こんな話をしてくれたことがある。

 とあるカラスの群れに、一羽だけ全身真っ白なカラスがいた。真っ黒な集団の中に真っ白なやつが混じっているとなれば、それは相当目立つもので、周囲からは完全に浮いてしまう。白カラスは小さい頃から周りにからかわれ、いじめられて過ごしてきた。
 しかし白カラスは、周りからどんな扱いを受けようと、決して卑屈になることも、やけになることもなかった。俺はみんなとは違う、けれどもそれは悪いことではない。きっと俺はたったひとり神様に選ばれた、特別な存在なんだ。白カラスはそう考えて自らを慰めた。
 それから、白カラスは自分が特別であることを証明しようと、自分だけにしかできないことを探し求めるようになった。それはすぐに見つかった。白カラスは自分がとても美しい声をしているのに気づいたのだ。それは、周りのカーカーという騒音のような鳴き声と比べると、まったく対照的だった。
 その才能に気づいた白カラスは、それから毎日歌の練習に励んだ。すると、初めのうちこそ白カラスを面白がって冷やかしていた周りの連中も、いつの間にかその美しい歌に惹かれていった。とうとう、彼らのほうから白カラスに歌を聞かせてくれるようせがむようになり、白カラスは一躍群れの人気者になった。それからというもの、群れの中に白カラスを笑いものにするものはいなくなったということだ。
 だが、話はこれで終わりではない。白カラスが歌が上手かったのには、隠された秘密があった。それは白カラスの正体に関係する。
 実は、白カラスはもとからカラスなどではなく、本当は近くのペットショップから逃げ出してきたインコだったのだ。それがどういうわけかカラスの群れに混じりこみ、自他ともにカラスだと思い込むようになったのだ。インコだから歌が上手いのは当然のことで、結局白カラスは「特別なカラス」などではなく、「普通のインコ」に過ぎなかった、というわけだ。

「つまり、だ。どんな天才と呼ばれる人物も、ちょっと見方を変えれば凡人と何一つ変わらない、ということさ。ま、せいぜい頑張りな」と最後に友人は付け加えた。それは励ましの言葉のようであったが、自分が白いカラスであると信じ込もうとしている私への皮肉のつもりかもしれなかった。

 私はといえば、あれから数年たった今でも鳴かず飛ばずのままである。


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