第89期 #13
球になりたい。
地球が、宇宙が、神様が造形した1番自然で安心感のあるあの形、何処から見ても変わることなく、裏も表も端もない。
完璧な形。
神様がいるのなら人間みたいな形じゃなくて、球なんじゃないかと思う、何に対しても強く、傷付けることも傷付くこともない、誰からも愛されて、たまに恐怖を与える形。
喜怒哀楽。
「人の感情には刺がある球になりてぇ、球になりてぇよ」
じーちゃんが言ったよ、人を傷付けたくねぇのに傷付けちまうのは、神様が人間を嫌いで嫌いで、大嫌いだから互いに傷付けるように、引っ掛かるように突起を五つもつくったんだってよ。
「とうちゃんも、球になりてぇ?」意外とちゃんと話しを聞いていたのかと幼い息子に少しだけ驚いた。
「とうちゃんは球になりてぇ?」本当に確かめるように聞いてくる。
「なりてぇ……って思ってたよ、話してる途中まではな」「今は?」目と目が合う
「もう手じゃお前撫でてやれんしな、抱きしめてもやれん。とうちゃん手無くしちまったからな……でもなぁまだ足あるからな、汚いかもしれんけど撫でても抱きしめてもやれる、これで球になっちまったら傷付けることはないかもだが、優しくも出来んって話してる途中に思ったよ。」
丸型にしろ星型にしろ神様にしかそんな造形は出来ない、そんな気がしたのだ。
「大丈夫、とうちゃん丸っこくなってもおれが抱きしめてやるでよ」息子はこんなにいい男になったかと、目に涙が滲んだが拭く手が無くて困った、不便意外の何物でもない。
鳴咽混じりの声しか出ずに、歯を食いしばっているとティッシュが目にあてがわれ、水分を吸収した「泣くなや」と言われたが泣き止めず、「しかたなか」と林檎片手に涙を拭われ、男の……否、父のプライドはズタズタだがもういい、悔いはない。
「俺の息子はいい男だ」がははっと久しぶりに大声を出すと、通りがけの看護婦さんに静かにしてくださいねと微笑まれた。
感謝するよ、この世界に。神様に。