第89期 #12
彼は布団の中が何やらスースーするのを感じ、掛け布団を捲って見た。すると敷布団に小さな『穴』ができているのが見えた。
何も考えずにその『穴』を覗くと、チカチカと小さな光が瞬いていた。彼にはそれが宇宙に見えた。
酔い潰れていた彼は突拍子もないことを思いく。
「こいつでオナニーしよう」
直後、彼にとってその『穴』が急に官能的なものに感じられてきた。獣欲が背骨を舐める。股間が律動を始める。
彼は寝巻きから中空に男根を晒した。『穴』のことを全く疑問に思わない。
寒々とした室内で、その雄々しき槍は湯気を放ってるように見えた。
心なしか、敷布団が盛り上がっているように彼には見えた。穴が彼の方にぐぐっと向くようにも見えた。「何と言うことだ、すばらしい角度!」どうやらこれは彼にとって一番興奮する挿入角度らしい。彼は幻覚を受け入れた。
彼は盛り上がった布団を掴み、一息で男根を穴に挿入する。
宇宙空間から想像されるような冷たさはそこになかった。震えを起こすような温もりが彼を下半身から包んだ。
…………
一瞬の静寂の後、彼は腰を前後に動かし始めた。彼は最初の一刺しで達してしまったと自分で思っていたが、いつもよりタフなのかまだ力強かった。
余談ではあるが、『馬並み』という表現を『精力絶倫』という意味で使うのは間違いだそうだ。馬の性行為は実際には非常に早く終わると聞く。
彼の動作がどんどん早くなってくる。
これほどの名器に彼は触れたことがなかった。恐らくこの先もこの『穴』ほどすぐれたものにお目にかかれないだろう。
獣と聞き間違うばかりの、低い呼吸音が室内に響く。彼は夢中だった。
熱に包まれ、全てが蕩けていく。虚ろな女性が真に迫った嬌声を放つ。
彼は涙を流していた。
『自分は営みを行っている』という感動と、極めて原始的な快楽が彼の脳内を確実に焼ききろうとしていた。
全身が酸素を求める。細胞分裂を感じる。境地はもうすぐそこだった。
この感動を言葉にしろ。
『命令』は驚異的な干渉力で彼の言語中枢に働きかける。その言葉を導くために。
「あ、う、っあ」
そこで彼の存在理由は決定された。
この瞬間のために、彼は選ばれたのだ。
快楽へ、快楽へ!
壊れてしまいそうな速度で駆動する。
限界だった。
言葉にせよ。
「ひ、ひ、ひ、光あれぇぇっ」
高らかな叫びと共に、彼は『全て』を穴注ぎ込んだ。
天地創造、ここに記す。