第89期 #11
ボクのほっぺたはよくのびます。
休み時間になると、クラスのみんながあつまってきて、ボクのほっぺたをのばして遊びます。
ヨシオ君やハラダ君はやさしいので、ボクが痛くないようにひっぱります。
でもミユキちゃんは、ボクがイタイイタイって言ってるのに、笑いながらおもいっきりひっぱってきます。
だからぼくは、ミユキちゃんがだいきらいです。
この前もそうでした。
ボクが、ときょうそうでビリになったバツとして、先生に右のほっぺたと左のほっぺたをひっぱられて口の前で固結びされたとき。
結び目が口にすっぽりはまって何もしゃべれないボクを見て、クラスのみんなは笑いました。
ミユキちゃんもやっぱり笑っていました。
でもミユキちゃんは、みんなとちがってひとりだけ歯を見せないで笑っていました。
ボクは、それがとてもいやでした。
ボクは、ミユキちゃんの黒目をずっと見ていました。
遠くから見ても、まっくろな黒目でした。
ほかにもミユキちゃんは、ボクのほっぺたを無理やりのばして電柱にくくりつけたこともあります。
すごく痛かったです。
すごく痛かったのに、通りかかったおとなの人たちは「なにこれどういうこと」とか言うだけで、ぜんぜん助けてくれませんでした。
ボクは泣きながら、なんどもミユキちゃんにあやまりました。
そしたらミユキちゃんは「なんでも言うこと聞くならいいよ」と言ったので、ボクはうなづいて、電柱からほっぺたをほどいてもらいました。
そしてそのあとボクは、はじめてミユキちゃんの家に行きました。
ミユキちゃんは自分のへやに着くと、ボクに「服をぬいで」と言いました。
はずかしかったけど、しかたないのでボクははだかになりました。
そしたらミユキちゃんはボクに近づいて、おなかとか、おしりとか、ぜんぜん伸びないところばっかりひっぱってきました。
はじめてかぐ女の子のへやのにおいと、はだかになったはずかしさと、だいきらいなミユキちゃんにひっぱられてるので、ボクはおなかの中がかゆくなりました。
思わずうつむくと、ミユキちゃんと目が合いました。
ミユキちゃんはゆっくり立ちあがって、ボクの目を見ながら、やさしくほっぺたをひっぱってきました。
すごくきんちょうしました。
目をそらして、ミユキちゃんのえくぼをずっと見ました。
横にある、切り込みを入れたみたいなうすいくちびるに目がいかないように気をつけながら。
ボクは、ミユキちゃんのえくぼをずっと見ていました。