第88期 #4

10時10分小鳥を捕まえるように

10時10分小鳥を捕まえる様に


僕は二十歳に成ってやっと車の免許を取った。彼女をドライブに連れて行くという必然性に迫られての事だ。

教習所の教官は気難しそうなひとばかりだった。僕はまるで中学生に戻った様な気分になった。

そう言った中で、実に気の利いた教官に出会った。

「10時10分とは美しい時間であり、優しい捕らえ方だ」教官はそういった。
僕は最初、何の事か分からなかった。

「君は小鳥を捕まえた事があるかね」教官はそう言った。
「ないです」

「小鳥を両手で優しく抱き捕まえようとする角度が、ちょうど10時10分の角度なんだ」教官はそう言った。
「なるほど」

「車のハンドルにしてもそうなんだ。君がもし車を恋人と思えるようになれば、君はその角度でハンドルを握りしめるだろう」教官はそう言った。

僕はこれで合格に三度失敗した。皮肉にも失った恋人の数と一緒だった。



Copyright © 2010 糸原太朗 / 編集: 短編