第88期 #2

『体液を切り売りする子ら』

◎今月の都市解剖(月刊ウィアー・ドーテイルズ一月号記事より抜粋)

 ケース1/まず知り合ったのは、先月高校を退学したばかりの十七歳の少年だった。
 どうして退学したの――
 厭になったから。
 何が――
 全部だよ、全部。
 ご両親は反対しなかった――
 言ってないもん。
 漫画喫茶で寝泊りしているらしいね。お金はあるの――
 大丈夫。売るから。
 売るって、何を――
 体液だよ。俺のでも、二、三千円くらいにはなるしね。

 ケース2/続いて、ケース1の少年の知り合いである、女子高生。こちらは現役。十七歳。去年までは援助交際で小遣い稼ぎをしていたという。経験人数は四十人。
 アルバイトは――
 前はしてたけど。馬鹿馬鹿しくなっちゃって。
 援助交際の方が儲かるって――
 ううん。援助交際も遅れてるよ。今はやっぱりアレでしょ。
 アレって、体液のこと――
 そうそう。一回覚えちゃうと他には手出せないし。
 売るっていうのは、どういうこと――
 そのまま。何でもいいの体液であれば。でもランクがあって。どこの体液かとか。いつの体液だとか。
 どこ、いつ、っていうのは――
 だからどこから出たのか、いつ出たのかってこと。朝方のが高かったり、生理の時とかのも高いかな。逆に入浴後のが好きな人もいるみたい。濃度は薄いけど、デビューにはおすすめ。やっぱり下から出るのが一番人気。ほとんど下からので、おまけに上からとか腋からとかのを買って行くパターンが多いかも。
 それを買った人は何に使うのだろう――
 一番は舐めるんじゃないの。他にも保管しておくのとか、臭いを嗅ぐだけのとかも知ってるけど。人それぞれでしょ。
 売っていることに罪悪感とかはないの――
 別に。体と違って老廃物みたいなものだし、何の害もないもの。逆に援助交際なんかやって体売ってた頃が馬鹿みたいに思って。二回も堕ろしたし。あ、そういえば妊娠中に溜まるのはものすごい値段をつけてくれるらしいよ。わたしは試したことないけど。

 少年少女たちは、体液――汗、涙、洟、唾、涎、脂、尿、血、愛液等々――を売っているようだ。10CC単位がもっぱらの定量で、単価は女性物で五千円〜二万円が相場らしい。

 おじさんは何処のが欲しいのさ。

◎今月の都市解剖
 担当記者の逮捕により、二月号以降の掲載なし。
 記者は一月十日付、業務上横領の発覚により逮捕。
 青少年育成条例等への抵触も考えられるが立件は難しい模様。



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