第87期 #30

幸福独占禁止法

「こんにちは」
「誰だよ、おまえ」
「死神と申します」
「死神?? ってことは、まさか……」
「はい。あなたの余命はあと半年ということになりましたので、お伝えに参りました」
「おいっ! 余命半年ってどういうことだよ!!」
「あなたは末期癌に侵されています。もう手遅れです、残念ですが諦めて下さい」
「何故だ!? なんで、俺がこんな目に遭わなきゃならないんだよ」
「あなたは幸せを独り占めしてしまったからです」
「幸せを……独り占め??」
「人間の幸せというのは、本来は平等でなくてはいけません。しかも、幸せになる回数というのは限られております。あなたは、安定した職業に就き、美しくすべてに完璧な奥様をもらい、お子さんを三人ももうけ、マイホームまで手に入れてしまった。そこまで一人で幸せを独占してしまうと、平等に割り振ることが困難になるのです」
「そんな滅茶苦茶な話があるかよ! 就職だって、結婚だって俺がどれだけ努力してきたと思ってんだ」
「しかし、同じように努力したけれど不幸なまま一生を終える人もいるわけですから」
「そんなこと知るか! 俺はまだまだやることが残っているんだ。死ぬわけにいかないんだよ」
「ですが、あなたが亡くなることによって、結婚できない不幸な方が奥様と再婚することができます。子宝に恵まれない不幸な方が、養子としてお子さんたちを引き取ることもできます。なかなか出世できなかった不幸な方が、あたなの抜けたポストに就くことができます。マイホームを手にできなかった不幸な方も……」
「わかったよ! わかった。だからといって、俺が死ぬしか方法はないのか?」
「それでは、お子さんたちが交通事故死、もしくは奥様が強姦され殺れるという選択肢もありますけれど……」
「頼む、それだけはやめてくれ! わかった、俺が死ねばいいんだろ? 死ぬよ、死んでやるよ」
「やっとおわかりいただけたようですね。亡くなられるまでは、あと半年猶予がございます。ご家族とよい思い出をつくってください。それでは失礼致します」



Copyright © 2009 中崎 信幸 / 編集: 短編