第87期 #18
世界は、綺麗だろうか?
冬の寒い日のことだ。
高校生である僕は公園に足を運んでいた。嫌なことがあると、まるで逃げるかのように、僕はその公園に行く。
その公園には一本の木がある。遊具がある方からは離れ、忘れさられているような木が。
その木に寄り掛かると、少しは気分が晴れるんだが…今日は晴れなかった。おかしいな、いつもなら不思議なほど晴れたのに。
「こんにちわ」
と、いつのまにか僕の前に女の子がいた。
多分、小学校低学年…2年生くらいの長い髪の女の子は、僕と遊ぼうと言ってくる。
僕は誰からも必要とされていない。そんな悩みをかかえていた僕を、必要とする存在が現れた。
僕は彼女と話した。
来る日も、来る日も。
女の子と過ごして、疑問に思うことがあった。
彼女は木の下から出ようとしないのだ。
当然、理由を聞いた。
「貴方はいつも苦しんでいた。…だから、私は助けたかった」
瞬間、僕の目の前が真っ白になる。何も見えないはずなのに、その光は美しかった。
汚い世界に、輝いていた。
…その後、僕は彼女を見なくなった。今では幻かとも思う。
けれど。その木は桜で、春になると綺麗な花を咲かせていた。
彼女の心のように綺麗な花は、彼女がいた木の下に散っていく。
消えた女の子の存在を埋めるように、されども消えたことを明らかにするように…。
僕はその桜の下に行く。
そして、息を吸って言う。
「この世界は…綺麗だ」
優しい彼女のように…
僕は、そっと呟いた。
きっと彼女は桜だった。
…これは奇跡の話だ。
桜が見せた、一つの奇跡の。