第86期 #9

新年、新月、凍て夜に

新年の闇夜星が降るように輝き、寒さは肌を裂くようにきびしい。
都会の夜空はいつものように地上の明るさが汚れた空気を白っぽくさせて夜空になにか抗議しているような気持ちにさせる。オレがそう思うからだろうか。それでも、今日の空は星がきれいだ。
話題になった新星がひときわ強く光っている、まるでまだ明るい夕方に見るいちばん星のように光っているのは小さな月のようだ。
古来、新星の爆発は吉兆、あるいは凶兆と云われ預言者のかたりの種になってきた。現代、とくに預言者はでてこないが人々はすこしは賢明になったのだろうか。
そう、世の中よくなったのだと思うが、さて、
はたして良くなったのはどんな字がふさわしいのだろうか? 好い、善い、良い、まあ、良いがいちばんふさわしいだろう。わたしは今の世を好きではない。戦争、公害、核兵器、こんな世は善いはずがない。悪でも、嫌世でも良いのだ。そう云うしかないのかも知れない。それだったら、人々が賢明になろうと愚鈍であろうとどうでもいいことになる。大事な事は今日生きていて、もうすぐ明日が来るということなのかもしれない。
凍てつく夜に思うことが、恨みごと、ではなくてまるで、悩み事を探しているようなのは、ちょっと間が抜けている。自分の間抜けを楽しんでいるのならそりゃ、いいことで世の中よいのかもしれない。
夜明けが来る前に眠気がさしてくる。無理していれば夜明け過ぎすっかり日が昇ってお天道様がかんかんいって照らすようになったころ白河夜船で勤めにも行かず夜まで寝てる。
そんなバカな想い出がある。してみると、こういう人間はいなくてもいいのかもしれない。
オレに限らずいなくてもいい人間というのはあんがいいるのではないだろうか?

ひとさまに向かってあんた、いなくてもいいよ、とは、云うことではない。完全に礼を欠いている。
だからオレは云わない。云わないが考えてみればどんな人間でも存在価値があるという言葉は、多分になぐさめを含んでいるように思う。そう、やっぱりオレに限らずいなくてもいい人間はいるんじゃなかろうか?
これは、どうかと思うのだが、死罪判決を免れた犯罪者にいっしょうかけて償いなさいと、裁判官がいう。
ただ生きることに意義があるなら、それで償いになる。ならば、誰も同じこと価値がある。
改まって云うことではないがどんな人間にも価値があるなら、ただ生きるだけで素晴らしい価値が有る。うん、そうだと思う。



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