第86期 #23
万歳という気持で、二一歳の会社の派遣スタッフの女の子と一夜限り前提の行為を終えて、金曜だったのでそのままホテルに泊まりこみ、朝に、女の子と別れ、始発に乗り、歩くのも面倒で、家までタクシーを拾って帰る途中のことだった。
携帯電話に、あなたの子供を妊娠していました、というメールが来た。五か月前に別れた女性から。
楽しい時間を過ごした後だというのに、いっぺんでストレスが満水位になった。貯水池の壁にもほころびができそうな勢いで。
パターンA。
近所のコンビニの前でタクシーを降り、酒を買って飲んだ。いらいらしていた。
家に着く。鍵は開いていて、案の定、お腹をすこしだけ大きくした女が俺の部屋のベッドに座ってテレビを見ていた。
女は寝ていないのか、呼吸が不規則で、肩をゆらゆら揺らしながらこう訊ねてきた。
「昨日はなにしてた」
「女の子といた」
女の顔は丸いのだが、久しぶりによくその顔を見ると、よく見たのはつまりご機嫌伺いのようなものだが、その頬は窓から入りこむ朝日に照らされてるためか、バターロールの表面のように輝いていた。
あまり相手に先に喋らせると感情に炙られて、話が、わやくちゃになると厄介なので、先手を打った。
「なにしに来た」
「お金のこと」
小指の爪ほどには復縁の話もあるのかと思い、女と過ごした折々を回想したりしていたのだが、腹が立って仕様がなくなった。
俺は言ってみた。
「今からお前を撲っても構わないか」
「なぜ」
「むかし裏切ったから」
「分って。結婚が必ずしも最良ではない」
俺は、怒りに震えて女の右側頭部を後ろから右掌で打ち、すると女の首が左に曲折した。俺は更に打った。
女が泣きながら立ちあがり、俺の首筋に爪を立てた。痛い。血が滲んだようだ。俺は女の首根っ子を掴んでキッチンへと引っ張り出し、頭を抑えてシンクに突っ込ませ、蛇口をひねって頭に水をかけた。
水を止めて俺は言った。
「力で男に敵うはずがない」
「人に子供を作らせといてその態度はなんなの」
「あの時、避妊しないことに合意したろう」
「だからって無責任でいていいの?」
それから、女は、女に手をあげるのは人間の屑だと言った。
俺は言った。
「その常識に怒りを覚える」
俺はもう一度蛇口をひねった。
女は言った。
「あなたは、自分勝手」
「お前も自分の希望を俺に受け入れさせようとしている」
パターンB。
彼女が復縁を申し出る。
ハッピーエンド。