第86期 #2
私、谷崎可憐には3ヶ月ほど前からお付き合いしている彼がいます。
私は彼に、週に一度手作りのお弁当をお差し入れしています。
彼は月々のご両親の仕送りでアパートを借りて、そこで細々と暮らしています。
私と彼は別々の大学に通っていますが、彼は日々の食事代にも頭を抱える苦学生です。
今日も彼にお差し入れをしにいきます。
「こんばんは」
「あ、可憐ちゃん。いらっしゃーい。ちょー腹へってたんだ。さ、入って入って」
彼に促されるままお家に入って、食卓につきました。
「お勉強、お疲れ様です」
彼にお弁当箱を差し出すと、いつもこうしているのに彼は凄く喜んでくれて、おいしそうに全部食べてくれます。
私は彼の食べる姿を見ていられればそれだけでお腹いっぱいです。
「ごちそーさま!」と言ったあと、彼は深刻な顔をしてしまいました。
なにかを言いたそうだけど言いにくい、そんな顔です。
私は「可憐、あのさ……」と彼の話が本題に入る前に「はい。これ」とお金の入った封筒を差し出します。
彼の考えてることなら、全部わかるようになりたいから。
「いつも……悪いな」
「ううん、いいの。それより……」
私も彼に言いたいことがあります。
「私と……」
「え?」
思い切って……。
「私と、同棲しませんか?」
※
俺、森繁瀬名には付き合っている彼女がいる。
彼女とは一年くらい前から、俺の家で同棲している。
バイトもしていない俺は色々頼らないと生きていけない。彼女もそれを理解したうえで同棲している。
俺の家で彼女はテレビを観ていた。暑いせいかタンクトップを着ていて、白い肩が露出している。
「なあ」
後ろから声をかけて、俺は彼女の肩を揉んだ。
「なあに?」
「……しようぜ?」
「やぁだよ暑いしー」
俺は嫌がる彼女を無視して、揉んでいる手を肩から胸へとシフトした。
「どうせ汗かくんならさぁ」
恋仲である以上、これもある種、日課のようなものだ。彼女も妥協してくれた。
「べ、別にいいけど、もう夕方だよ?」
「すぐに済ませば大丈夫だって」
そのあとに用事を控えていたが、目先の欲望に終始した。
チャイムが鳴ったのは、丁度行為を終えたころだった。
「やべぇっ! もうきたのか!?」
「だ、だから言ったでしょー!?」
慌てて服を着る俺と彼女。
タイミング的にはギリギリだったが、いつものように彼女は押し入れの中に身を隠した。
俺も玄関にある女物の靴を下駄箱に入れ、独り身のフリをしてドアを開けた。
「こんばんは」