第86期 #1

覚醒

 目が覚めると、僕はどこかの部屋にいた。
 はわわ――。
 そうだ、ここは僕の部屋だ。気が付くと、そこは僕の部屋だった事を思い出した。
 誰もが自分の部屋を思い浮かべた時、最初に浮かんでくる様な、そんな部屋だ。
 なぜ僕は自分の部屋にいるんだろう。解らないね。
 そうか。昨日あれがあれして、アレだったんだった。
 誰もがアレと聞いた時、真っ先に思い浮かんでくる様な事。それがアレだった。
 アレのあれは、あの後どうなったんだろう。
 僕はアレの事が気になった。

「ニャア」

 うわ!
 驚いた。
 ああ、なんだ。
 猫か。
 その猫は、誰もが猫と聞いた時真っ先に思い出す様な、そんな猫だった。
 なぜ猫が僕の部屋にいるんだろう。気がつくと、僕の家は猫を飼っていた事を思い出した。
 そうだ。皆が自分の小説で猫を書きたくなるぐらい、皆猫が好きなんだった。
 だからうちもこうして猫を飼っているんだ。

「ニャア」

 可愛いなぁ。
 猫って。
 可愛いなぁ。

 そうしている内に、時間が過ぎていった――。

「夕飯用意出来たよー! 早く降りて来なさいー!」

 誰だ!
 目を覚ますと、僕を呼ぶ母親の大声がした。
 そうだ、母親だった。気がつくと、僕には母親がいる事を思い出した。
 誰もが母親と聞いて思い出す時、すぐに思い浮かんでくる様な、そんな母親だった。
 気がつくと、もう夕飯の時間になっていた。
 時が過ぎるのは早いもんだぁー。

「ニャア」

 うわ!
 可愛いなぁ。

 そうして、また時間が過ぎていった――。

「ご飯早く食べないと冷めるよ! もう片付けるよ!」

 誰だ!
 目を覚ますと、夕飯の時間だった事を思い出した。
 僕はその言葉に従って、ご飯を食べに降りて行った。

 ――誰もが夕食を思い浮かべた時、最初に浮かんでくる様なご飯のメニュー。
 そんな夕飯を食べ終わり部屋に戻ってくると、突然アレのことを思い出した。
 そうして僕はまた寝床についた。

 ――僕は、目を覚ました。
 気がつくと、僕はどこかの部屋にいた。
 僕は自分が目を覚ました事に気づくと、そうして目を覚ます事に気づく自分に、初めて気がついた。
 そうやって目を覚ました事に気づいた僕は、自分が目を覚ました事に気づいた旨が書いてある、小説の書き出しを読んでいる事に気づいた。

 だって、これを読んでいる君もそうだろう?

「ニャア」

 誰だ!



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