第85期 #4
人が生まれる。
幸福な人生の始まり。
わたしは大切に育てられてきました。役者になる。そんな方向が決まっていたのでした。
しかし、時間はすぎてわたしは、大人になっていたのです。役者のわたしの仕事が終わって。次の仕事がなかったとき、わたしは貰われてこの家に来たのです。
不安でいっぱいのわたしの前に、やせてひ弱な子供が、ものめずらしそうにたっていました。
みっともないとしか云い様ない子供で、だいじに育てられたようには見えませんでした。
そんなことはいえませんから、精一杯わたしは愛想良くして、友達になろうとしました。
しかし、大事にされていない子供っていうのはひにくれてれていて、意地悪だったのです。
意地悪な子供に肥溜めに突き落とされ、寒い冬の日に身を切るような冷たい水で洗われてそのまま、わたしは肺炎を起こしてしまいました。
病気の時には寝ないで看病してくれた両親や家族たちはいません。
すっかり、人を信じることもできなくなって、生きる気力が息をするたびにもれていきました。
そのうちに発熱から、体が震えるようになりました。がたがた震えていると、いまさらながら空腹を感じるようになったのです。いくらか気力が戻ってきたのかもしれません。
いやなことは考えないようにしました。
そうだ、温かい家庭と両親弟たち、わたしは幸せでした。役者としても成功しました。
いまはつらいときですが、また、あのころに戻れるでしょう。
そう思うと、まるで母親に抱かれているように体が温かくなってきました。お父さんはたくましく見守っています。弟がお母さんに甘えたいそぶりです。
こっちへおいで、一緒にお母さんに抱いてもらおう。
すっかり暖かく、幸せな気持ちですこし眠りました。
きれいな白いわたのような雪がちらちらと落ちてきました。
しあわせだなぁ……そうおもいながらまた眠りに入っていきました。