第85期 #3

既知と害の狭間でわらう物の怪の膝

伝染した病院。
座布団の花。
そんな二つのモノに囲まれた世界で僕はひた走る。
――物の怪から逃げる為に。

「甘いサンダーお待ちなさい」
物の怪が笑う。
止まると捕まりそうな気がして、僕は闇雲に逃げて走る。
物の怪が襲う。
僕は走る。
物の怪が襲う。
僕は逃げる。
物の怪が光る。
僕は走る。
次の瞬間、まばゆい光に包まれた。
光の速度に、追い抜かれた。

白くてなにもない世界に、グリーンピースがただ一つポツリ。
それは徐々に拡がっていき、真っ緑の世界へと色を変えた。
やがて緑は色あせていき、真っ青な世界に変わっていく。
ここで僕は考えた。
緑、青ときて、次にくるのは何色だろう。
緑と青は光の三原色のうちの二つだ。となると次にくるのは残った赤色か、緑と青を組み合わせた水色、そのどちらかだろう。
仮に法則性を求めるのならそうなるはず。
だけど、違った。
世界はまた白の世界へと戻っていった。
「くすくす。ハ・ズ・レ」
グリーンピースを食べながら、物の怪はそう笑ってみせた。
嘲るように。遊ぶように。ケラケラと。バカにした。

目を開けると、世界は僕の部屋だった。
やりっ放しの勉強、汗まみれのTシャツ、抜け落ちた髪の毛。
夢だったのか……? そう思った直後、新たな疑問が立ちはだかる。
(僕は、なんの夢を見ていたんだ?)
思い出せたのは、耳に残る誰かの笑い声だけだった。



Copyright © 2009 山羊 / 編集: 短編