第85期 #20
気がつくと俺はパイプ椅子に縄で縛り付けられていた。
訳もわからず辺りを見回す。ひたすらに闇が広がっている。その中で俺のいる場所だけがライトアップされている。ここはどこだ。何故こんな場所にいるんだ。昨日は高架下で飲んでいたはずだ。それは覚えている。でもそこから先の記憶が全く無い。そもそも何故俺は縛られているんだ?
「おはよう」
闇から俺の前に唐突に現れる白衣の男。不気味な笑顔を浮かべつつ俺を見下ろしてくる。
「おめでとう。君は見事選ばれた」
白衣の男がにやにやしながら言う。
察しのいい俺はそれで全てを悟った。この白衣の男、誰かに似ていると思ったら、そうだ。ガキの頃見ていたヒーロー物の何とか博士にそっくりじゃないか。
「これから改造手術をしようと思う」
ほら見ろ、やっぱりだ。バラバラのピースが脳内でどんどん合わさっていく。
つまり俺がヒーローなのだ。改造人間として悪に立ち向かう存在。最低の人生に転機が訪れたんだ。
小中は根暗だったからいじめに遭った。高校でそのイメージを払拭しようと髪を染めてみたが、またいじめられた。頭が悪かった俺は大学受験も失敗した。両親は出来のいい弟にばっかり構った。見返してやろうと必死で職を掴んだと思ったらひどい会社だった。今度は上司にいじめられた。女なんかできた例がない。デブで吹き出物だらけの俺なんて誰も構ってくれない。どいつもこいつも俺をいじめ、蔑み、嘲りやがる。俺が何をしたってんだ。
最悪だ。
「ついては君に聞きたいことがある。この御時世、どんなヒーローが流行ると思う?」
「……そうだな。龍をモチーフにしたダークヒーローがいいぞ。武器は剣で、イカした必殺技も必要だな」
「なるほど、龍か。それに剣。そして必殺技。王道だな」
白衣の男がうんうんと頷く。
――そうだ、俺は龍になる。
剣を持って社会の屑どもを皆殺しにするんだ。そして、心が綺麗で胸も大きくて凄く可愛い女の子と恋に落ちるんだ。全ての人間が俺をヒーローとして崇めるんだ。
最高だ。
「ありがとう、やはり君を選んで正解だった。実に参考になったよ」
「そいつはよかった。なら早く改造してくれ」
「心得た」
白衣の男が懐から銃を取り出す。
「え?」
「誰も君を改造するとは言ってないよ? ちゃんと絶世のイケメンを別に用意してある」
「ちょ」
「君の意見はきっと採用されるよ」
あ、そういや何とか博士って悪役だったな。
ぱん。