第85期 #14

笑う淑女の生活

「生きてるって、何でしょう」
「生きてるって、何かしら」
「生きてるって、何なのでしょうね」
「難しい問題ですわね」

「はぁ」
「どうなさったの、お姉様。溜め息なんておつきになって」
「あら怒狸子さん、いらしたの」
「ええ、ずっと。それで、どうしたんですの、お姉様」
「聞いてくださいます?」
「もちろんですわ、お姉様」
「昨日は鏡月のウーロン茶割り、今日は大五郎のウーロン茶割り」
「ええ」
「明日は鏡月のウーロン茶割り、明後日は大五郎のウーロン茶割り」
「そうですわね」
「毎日同じ事の繰り返しで、わたくし、生きている気がしませんのよ」
「そんなことありませんわ、お姉様」
「え?」
「集合!」
「な、なんですの? 怒狸子さん。このおすもうさんたちは一体どなたですの?」
「はじめ!」
「きゃっ! なんですのあなたたち。いやっ、苦しい。やめて、やめてください!」
「はいがんばって! どすこい! どすこい!」
「いやっ、ちょっと、苦しいんです、やめてください! やめてーっ!!」
「止め!」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ご苦労様。はい、これでちゃんこ鍋でも食べてくださいな」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「よし撤収!」
「ど、怒狸子さん、なんですの今のは」
「おすもうさんですわ」
「どういうことですの? わたくし、危うく死んでしまうところでしたわ」
「まあ、お姉様。今何とおっしゃいまして?」
「ですから、死んでしまうところでしたと」
「死んでしまうところということは、生きているではありませんこと?」
「あら、そうでしたわ」
「よかったですわ、お姉様」

「生きてるって、何でしょう」
「生きてるって、何かしら」
「生きてるって、何なのでしょうね」
「難しい問題ですわね」
「…………」
「あ、あら、お姉様? おねーさまー!!」

「あらぁ怒狸子さん。こんばんは」
「まあ、魅留お姉様。今夜もひときわ白くてお美しいのですね」
「もぉう、からかわないでくださいな」
「ところで魅留お姉様、これからお出かけですの?」
「ええ、南の島まで。海のきれいなところですのよ」
「それは羨ましいですわ」
「まあ、それなら怒狸子さんも一緒に行きませんこと?」
「いいんですの?」
「もちろんですわ。怒狸子さん、あちらについたらやってみたいことがあるんですの」
「なんです?」
「わたくしと怒狸子さんとで観光客の前に立ちまして」
「ええ」
「二人で息を合わせてこう言うのです」
「何と言うのです?」
「あいあいあいあいあい百圓」



Copyright © 2009 わら / 編集: 短編